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「やっぱり、脳に異常はないみたい。記憶喪失は、心因性のもので間違いない。もちろん、失声症も」
千賀さんは子どもに話すみたいに優しく、ゆっくりと説明してくれた。
二階堂こども医院とは、比べ物にならないくらい大きな大きな総合病院。
千賀さんはここの跡取り息子で、精神科のお医者様だった。
「もしかしたら桃ちゃんには、すごく辛いことがあって、それは、桃ちゃんにとって耐えがたい何かだったんだ。脳はそれを防衛しようと、桃ちゃんを守るために頑張っちゃったんだね」
私は二階堂さんに買ってもらった、持ち運べるホワイトボードを取り出した。
----私は、辛いことから逃げたんですね。
そう書いたものを、千賀さんに差し出す。
千賀さんはそれを読むと、私を見て微笑んだ。
「逃げちゃダメなの?」
"え?"
「自分が壊れてしまうくらい辛いことには、立ち向かわなくていいじゃん。俺は逃げるね。一目散に」
ロイヤルスマイルと二階堂さんが呼んでいるその笑顔は、本当にどこかの国の王子様みたいだ。
「桃ちゃん、今日は何かいいことあった?楽しいことでもいいよ?」
---おじいちゃんと二階堂さんが、朝食も昼食も、全部完食してくれて、美味しいって言ってくれました。
「そうなんだ!夕食も完食してくれるといいね」
"はい"って頷く私に、千賀さんは綺麗な紙に包まれた飴玉をくれた。
「お薬です。今は、反省したり、後悔したり、そういうこととは距離を置いて、楽しいこととか、嬉しいことの数を増やしていこう。過去に向き合うのを、急ぐべきじゃない」
「お大事に」って言って、千賀さんは私を送り出してくれた。
病院を出てすぐのところには、二階堂さんが立っていて、私はたちまち安心感に包まれる。
「桃!どうだった?」
----千賀さんは、素敵なお医者様だと思います。
ホワイトボードを見て、二階堂さんは笑う。
「俺もそう思うよ」
千賀先生、嬉しいこと、あっという間に増えました。
主治医の先生が、とても素敵な先生でした。
二階堂さんが、私を待っていてくれました。
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れいな - 初めましてこんにちは。このお話が大好きで何度か読ませていただいております。そのたびに大号泣しています。こんな素敵な作品に出会わせてくださってありがとうございます。 (2020年7月4日 4時) (レス) id: ac9fdaad24 (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - naoさん» はじめまして。コメントの通知が来ておらず、お返事が遅くなってすみません(>_<)naoさんは二階堂くんがお好きなんですね!私の書いたもので、少しでも楽しんでいただけたのなら嬉しいです(*^-^*)書いててよかったです。コメント、ありがとうございます(^-^) (2019年8月26日 13時) (レス) id: a3dcba5f46 (このIDを非表示/違反報告)
nao(プロフ) - 初めまして。二階堂高嗣で検索して、このス素敵な物語に出会いました。もう最初から最後まで、胸がギューっとなりながら一気に読み終えました。今まで読んだ作品の中で、1番好きです。本当に感動しました!大好きな二階堂くんがしあわせになってくれて嬉しいです! (2019年8月7日 3時) (レス) id: 98957e13af (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - くまのこさん» 意味がわからないくらい...なんて、そんなに泣いてくださって感激です(;∀;)お気に入り作者に登録していただいて、重ね重ねありがとうございます★ (2018年8月8日 19時) (レス) id: a3dcba5f46 (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - にかあゆさん» 泣いてくださったんですね!うわぁぁ、ありがとうございます(;∀;)そして、全作品読んでくださったなんて嬉しいです! (2018年8月8日 19時) (レス) id: a3dcba5f46 (このIDを非表示/違反報告)
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