いくつかの君の記憶

21 (二階堂くん) ページ21

「あのさぁ、診療時間外なんですけど。本当にどうやって入ってきてんの？おじいちゃんもニカも」




千賀は呆れていたけど、俺の表情を見ると黙ってコーヒーを淹れてくれた。





「千賀」





「ん？」






「・・・桃の彼氏が来た」







「え？！」





「すごく、ちゃんとした人だった」






「よかったじゃん！これで桃ちゃんも・・






「やっぱ、それが正しい反応だよな」






「ニカ？」







俺は、千賀みたいに喜べなかった。




手放しに、桃の幸せを喜べなかったんだ。






そんな自分が情けなくて、恥ずかしくて、桃の顔を直視することができなかった。







「それで？桃ちゃんは、いったいどこの誰だったの？」








望月A。



25歳。



両親と3人で、小さな喫茶店をやっている。




恋人は、俺でも知ってるくらい大きな会社の息子で、とても、彼女のことを大切に想っている。






「何か、普通に幸せそうな環境だよね？桃ちゃんに何があったんだろう」






「Aだよ」






「え？」






「もう、桃じゃない」






「・・・・それでそんな顔してんのか」






千賀はそう言って、しょうがないなぁって笑う。





「は？」









「いつの間に、そんなに好きになっちゃったの？」









「・・・好き？」







「今のニカのその気持ちを、"好き"以外の言葉で表すのは無理だよ」









そんなにあっさり、言っちゃうわけ？




もっと溜めてくれてもいいじゃんか。




普通に言わないでくれよ。




当たり前みたいに言わないでくれよ。








好きになってどうすんだ。







好きになったからって、俺たちの間には何も生まれないし、何も生まれてはいけないのに。







「・・・好きじゃない」






「そういうテイにするわけ？」






「本当に、そういうのじゃないから」






「そう」








嘘つきだと言われても、俺はこの気持ちを認めない。






だって、知ってるから。








一度認めてしまった気持ちは、自分の意思に関係なく、どんどん大きく膨らんでいくこと。







これ以上、君への気持ちが増えてしまったら、俺は、君を返したくなくなってしまう。

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