じゅうに ページ12
「手前、目の色…?」
窓から落ちた時は紫で、さっきまで紅だったのに、今は深い青。
そうか、異能の発動で瞳の色が変わるのか。
「目…?」
こてん、と首をかしげると後ろから弾丸が飛んできて目の前であらぬ方向へと飛んで行った。
「ちゅーやさん、まもる」
目が再び紅くなり、周囲に渦ができた。
それは少女を中心として球体のように広がっていった。
彼女の肩越しに向こう側から黒服たちが銃を撃ってくるが、その渦がことごとく吸い込んでいく。
銃弾どころか周囲の木々すら黒い渦が巻き込んでいつた。
「待て待て待て!落ち着け!」
「?はい」
萎んでいく半球体の渦。
これは、俺の意識の狭間からいつも見えている重力分子の塊だろ…なんでこいつ汚辱状態でもないのに発動してんだ。
少女の肩に手を置いた自分の手を見てさらに驚くことになった。
「中也!!!止まれ!!」
太宰が焦る程度にやばい状態。
「俺は汚辱をやってねえ」
自分の腕には汚辱の痣が広がっていた。
ーーーーーーーー
「君、なにしたの?」
「ちゅーやさん、守りたかった」
「おいコラくそ太宰!!手前いい加減にしろよ!此奴をあんな高い所から落っことしたりぶん殴ったり「それで結果が出たからいいでしょ」良い訳がねえだろ!!!」
太宰と中也が取っ組み合いを始めてしまい、その様子を宙に浮きながら見守る。
浮いていれば足も痛くない。
こんなにも空は遠く、世界は広いのか、と海の向こうに沈んでいく朱色の太陽を見た。
高い所から落ちた時、浮き上がるような重力に感動した。
なによりも、この世界の美しさに心を奪われた。
煌めく水平線が、
色の変わっていく空が、
人が作り上げたこの街が、
全てが綺麗だった。
そして何より、落ちる直前の手を伸ばしたその先にあったあの暗い青藍と明るい鳶色に。
心を奪われたのだ。
「ホンモノ、嫌い。
でも、綺麗。みんな守りたい」
いつの間にか隣にいた森にそう言ったのだった。
「それが君の意見かな?」
「私、ここが、好き」
「ふふふ、私もこの街が好きで守りたいんだ。ようこそヨコハマへ…そしてポートマフィアへ」
地上に降りてそっと跪き、こうべを垂れる少女。
それは偶然にも、とある少年と同じ行動だった。
そして、少女が初めて『個』として一人称を使い、初めて自分の言葉を話した日になった。
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作者名:蘭兎 | 作成日時:2019年8月1日 22時