marionette doll【霧隠ラント】

13，親友 ページ16

「…今は、どう？」

数秒の沈黙が流れたあと、フブキちゃんは少し、躊躇うようにそう言った。

「……分からない。」

本当に、分からない。
自分のことは、自分が一番よく知っている…とはよく言うものだが…今回は、本当に分からない。

…私が追いかけて、恋焦がれていたのは…あの時の、優しかった『霧隠ラント』なのか。それとも『霧隠ラント』という人間自体に惹かれていたのか。
それすらハッキリともしないまま、ただただ冷酷な彼を見ているのだから。

「……私は、彼が大好きだった。
確かに、顔立ちは…今も昔も変わらず美人で…カッコイイな、とは思う。
…昔からの恋情が、全て消えたわけじゃないし…好きか･嫌いかで聞かれたら、好き…なのかもしれない。
だけど、彼は……あの頃の彼とは全く違うから…。

変わってしまった人を、元に戻すのは困難なこと…
それは分かってる。だけど…あのラント君の変わりようは異常よ…。だから、あの頃のラント君に…優しいラント君に戻って欲しくて……｣

彼は確かに、あんな風に変わっているのかもしれない
だが…彼は元々、権力を振りかざして…人を否定して、ましてや引き裂こうなんて…絶対にしなかった。

「…YSPクラブって、七不思議の解決をしているんでしょう？品位を気にする彼ならきっと…解決すれば絶対に認めてくれるはず…だから、私にも手伝わせて欲しいの…」

『品位を気にする』なんて、私からは絶対に言いたくなかった言葉で…自然と、泣き崩れていた。

ダメだ。やっぱり…私、ラント君が好きだ。
だから、今の彼も受け入れたくて…でも、受け入れられなくて……ぐちゃぐちゃな感情に挟まれて、もうどうにかなってしまいそう。


「…そんなの…手伝わせて…なんて、もちろんいいに決まってるじゃない…！もうメンバーなんだから…私を…みんなをもっと頼ってよ。…みんなで…みんなで一緒に、霧隠先輩を変えよう。」

ふわりと私を抱きしめたフブキちゃんは、暖かくて…人が近くにいるのって、こんなに安心するんだ…

「…ありがとう…ありがとう、フブキちゃん…」

「…フブキでいいよ。ちゃん付け禁止ね、A」

フブキちゃんは、私を抱きしめたまま小さく呟く。
少し、腕の力が強くなったような気がした。

「…うん、ありがとう。フブキ」

そう応えると、フブキは私の耳元でボソリと言った。

「私がAのヒーローになる」

フブキの顔は見えなかったが、私と同じように…大粒の涙を流しているように思えた

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