marionette doll【霧隠ラント】

22，末路 ページ28

「見てるうちにさ…ここは外国の街なんだって…なんだろう、劇場だって言うのを忘れちゃうくらい、劇の世界に引き込まれちゃってて…だから、主役の子、本当にすごいなって思ってたんだよ」

「それは良かった…。役者にとって、世界に入り込んでもらえること以上に、嬉しいことは無いから。…そう言って貰えて、本当に嬉しい。」

素直にそう思った。
面と向かって褒められるのは、照れくさいことではあるけれど…やっぱり、感想を言って貰えるのは、今後のモチベーションにもなる──なんて、しばらく活動休止の私には関係ないか。

「そう言えば…主人公の女の子って、結局…」

思い出そうとしたようだが、どうやら結末までは覚えていなかったらしい。…正直、あまりいい終わり方では無いので、忘れているならそれで良いのだが…
フブキのこの感じだと、はぐらかしは通用しなそうだ

「……バットエンド…いや、見ようによってはハッピーエンドかもね。…主人公は、大好きな人のためにと想い人の願いを叶え続けるの。…それが、どんなに過酷な願いでも、必ず。言うことを聞き続けた彼女はやがて…本物のdoll──人形になってしまったのよ」

そう伝えると、先程までニコニコしていたフブキの顔が強ばった。──見ようによってはハッピーエンド…というのは言い過ぎだったかもしれないが、主人公はこれから未来永劫、愛する人の言うことをだけを聞けるのだ…想い人に狂気的なまで陶酔しきっていた彼女にとっては、それこそ、幸せな最期だったのではなかろうか。

「可哀想な話だよね…彼女が助かる方法は、なかったのかな…」

「…どうだろうね。作中、彼女には想い人以外の近しい人…家族も友人も、誰一人として出てこなかったから…もし、止めてくれる人がいたなら…未来は変わっていたかもね」

随分、優しいことを考える子だ。
私はあの時…役に完全に入り込んでいたから、『可哀想』なんて思わなかった。それが、幸せだと信じ込んでいた。

役者にとって、1番なってはいけないのが『役に入り込みすぎること』だ。

──特に、私のような悲劇の主人公は…役に入り込み過ぎると、本当にその劇に取り込まれてしまう。

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