*夢の先へ ページ45
それから約、25年の月日が流れた。
「母さん、体の調子はどう?」
「今日はとても気分がいいのよ、ありがとう」
病にかかった私のお見舞いに来てくれた息子に、そう礼を言う。
「お母さん、お花買ってきたのよ、綺麗でしょう?どこに飾る?」
「う〜ん、そうね、それじゃあその窓の近くにお願いしてもいい?」
「ん、分かった」
娘は一昨年に結婚し、今年娘が生まれたのだ。まだ自分が、おばあちゃんになったという自覚はないけれど、それでも、初孫は本当に可愛らしかった。
“義勇にそっくり”だなんて思ってしまって。
「2人とも、私、なんだか眠たいから、少しだけ寝させてもらうわね」
「うん、ゆっくり寝といてよ」
「起きたらリンゴ剥いてあげるからね」
横になれば、一気に睡魔に襲われる。そのまま意識は、深い闇の底へと落ちて行った。
「…?ここ、どこかしら」
気づけば私は、長い長い、トンネルを走っていた。向こうに明かりが見える。きっとあそこが出口なのだろう。そして、いつの間にか――
「私、17歳のころの姿に戻ってる?」
艶やかな黒髪も、滑らかで白い肌も、17歳当時のままである。この頃は体力もあったので、長い間走っていても、まったく疲れを感じない。
肉体だけでなく、精神もどうやら17歳のころに戻ってしまったみたいで。
「トンネルの向こうには、何があるのかしら」
好奇心で走り続ける。出口はもうすぐそこに、そして――
「A」
「…っ!?」
耳をくすぐる、自分を呼ぶ声。世界で最も、愛しい人の声が聞こえた瞬間、私は滂沱と涙を流していた。
夜空を溶かし込んだ濃紺の髪、静かに輝く蒼色の瞳。
「義勇?」
そう尋ねる前に、私の体は温かいものに包み込まれていた。
魂が震えるような感情。
寂しかった。実際に会えなかった期間は25年、でも、私にとっては数百年ぶりと言っても過言ではなかった。
「一人にさせて、すまなかった」
「一人じゃないわよ、だってあなたとの子供たちがいたんだもの。でも、寂しかった」
「すまない」
相変わらず無表情に見えるが、僅かに口角が吊り上がっている。
私にしか理解できない、彼の笑顔。
「行こうか」
「ええ」
2人手を取り合って、光の中へ歩いて行く。どこまでも――
「母さん?」
「お母さん!?」
ピーという音がして、白河Aの心電図は、真っ直ぐな一本の横線となった。
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ゆき(プロフ) - #観音坂ゆるさん» 泣いてくださったなんて…!!こっちがうれしくて泣きそうです!!そうです、居酒屋のあの女性は無惨様なんです、あれっきり登場することなかったんですけど…。夢主のことお気に入りだったみたいですね (2021年1月3日 0時) (レス) id: 02cc0a4dd4 (このIDを非表示/違反報告)
#観音坂ゆる - ところで、居酒屋のあの女性は無惨様だったんでしょうか…? (2021年1月3日 0時) (レス) id: 647e80459a (このIDを非表示/違反報告)
#観音坂ゆる - 最後めっちゃ泣きました( ;∀;)きゅんきゅんしたり、感動したりできる素晴らしい作品ですね!!完結おめでとうございます!! (2021年1月3日 0時) (レス) id: 647e80459a (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - まるこさん» あっ、もうめっちゃ頑張ります!コメント嬉しいです、ありがとうございます! (2020年11月3日 8時) (レス) id: c629cc7e2d (このIDを非表示/違反報告)
まるこ - めっちゃきゅんきゅんします〜〜!続きを心待ちにしております! (2020年11月2日 21時) (レス) id: 8f523f6a9b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆきのふ | 作成日時:2020年9月12日 23時