３０． ページ30
・
俺は急いでレコーディングルームに行き、エンジニアスタッフと打ち合わせ中だったディレクターを掴まえると、急用が出来たから休憩を延長させてくれと頼み込み、了解を得たか得ないかのうちにスタジオを飛び出した。
事務所は、後輩たちの手前、俺らに手本として相応しい行動を求めている。
叱られるだろうが、それどころじゃない。
大通りに出て、流しタクシーを探しながら瀬野さんに電話をかける。
運転中なのだろうか、すぐに出ない。
繰り返される呼び出し音がもどかしい。
ようやく電話が繋がった。
『翔くん？』
「瀬野さん！
今どこ！？」
『もうすぐ図書室に着く。
何かあった？』
「大野さんが居なくなった。
本田さんが捜してる」
『えっ！？』
「図書室に入るのは、ちょっと待って。
もしかしたら、大野さんがそっちに向かってるかもしれないんだ。
見つけたら、車に保護して、側から離れないでほしい」
『わかった。
…翔くん、もしかして、いま外に居るの？』
訝しげに問う声。
素直に答えるしかない。
「…ごめん。
居ても立ってもいられなくて。
後でどんな罰でも受けるよ」
電話の向こうで瀬野さんが「そっか」と言って、小さな溜め息をついた。
『その時は僕も付き合うよ』
「ごめんなさい」
もう一度謝った。
うちの事務所の場合、マネージャーの指示に対するタレントの拒否権は、原則ない。
瀬野さんの指示を守らなかった俺と、マネージメントしきれなかった瀬野さんは、ともにペナルティをくらう可能性が十分にあるのだ。
『で、翔くんはこれからどうするの？』
「タクシーでそっちに行く。
図書室には一緒に入ろう。
到着したら車の中で待ってて」
『一緒に入る？
それは駄目。
言ったでしょ？
危ないことはさせられない』
「瀬野さん、そんなこと言ってる場合じゃないよ。
石破さんと智くん、二人とも連絡がとれないんだよ？
智くんに至っては、あの体調で姿を消した。
わかってよ」
『だけど』
丁度空車のタクシーが通りかかり、行き過ぎそうなのを道路の中程まで出て何とか掴まえた。
「とにかく、すぐそっちに行くから待ってて」
危うく俺に接触しそうになった車のクラクションを浴びながら、瀬野さんとの通話を一方的に切って乗り込んだ。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 505人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
kotorix(プロフ) - satoshiikoさん» satoshikoさん、はじめまして！コメント有り難うございます♪薄気味悪い物語で恐縮です。智くんが受難続きですが、翔くんやメンバーが頑張ってくれますので、是非とも最終話までお付き合いくださいませ。今後ともどうぞ宜しくお願いいたします♪ (2014年8月20日 12時) (
レス) id: e9eb502708 (このIDを非表示/違反報告)
satoshiiko(プロフ) - はじめまして！ 山が好きでこちらへ辿り着きました。なんか怖いんですけど・・ドキドキして目が冴えてきたけど途中でやめますか。もう寝ないと明日の仕事に。でもたのしみです。ありがとう！ (2014年8月20日 1時) (レス) id: 48c930074b (このIDを非表示/違反報告)
kotorix(プロフ) - つっきー♪さん» つっきーさん♪お読み頂き、また、コメントを有り難うございます。本作は続編を含めると結構長い作品です。不気味な物語で恐縮ですが、宜しかったらお付き合いください♪矛盾点はどうかお見逃しを！σ(^_^;) (2014年2月4日 19時) (レス) id: e9eb502708 (このIDを非表示/違反報告)
つっきー♪ - オーナーが怖いですね 私だったら耐えられません kotorixさんのお話とても面白いです (2014年2月4日 18時) (レス) id: f90ae1b507 (このIDを非表示/違反報告)
kotorix(プロフ) - ありあけ。さん» ありあけ。さん♪お読み頂いて有り難うございます♪不気味なだけの物語にならないよう頑張りますので、引き続き宜しくお願い致します♪コメント嬉しかったですm(_ _)m (2013年1月8日 7時) (レス) id: 66db8230c5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：kotorix
| 作成日時：2012年12月15日 16時
