３．パーカーの人 ページ3
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貼り紙に書いてあった住所の番地に到着した俺は戸惑った。
何故ならそこにあったのは、下宿屋ではなく、「櫻井医院」の看板を掲げた内科外科医院だったから。
昭和の頃に建ったと一目で分かる、大きな木造二階建て。
間違ったのかと思って番地を確かめたが、看板に書かれた住所とちゃんと合っている。
医者が下宿屋もやってるなんて珍しいかもと思っていたら、中からグレーのパーカーを着た小柄な男が出て来て、郵便受けの新聞を取っていった。
医院の玄関に向かいながら新聞を広げて読み始める後ろ姿は、俺と同じくらい華奢。
長めの袖から覗いた指がえらく綺麗で、一瞬女性かと思った程だ。
俺は急いで彼に駆け寄り、呼び止めた。
「あの、すみません」
彼が振り向く。
何だ…？
めっちゃ綺麗な人でびっくりした。
額に下ろされた艶やかな前髪。
綺麗な形の眉。
人形のように整った鼻梁。
小さくふっくらとした唇。
長い睫毛に縁取られた少し潤んだ鳶色の瞳が、俺を捉える。
「なにか」
彼は首を少し傾げた。
中性的な顔立ちとは乖離した、男性的で落ち着いた通る声。
俺は柄にもなくどぎまぎしながら言った。
「えっと、あの…
賄い人募集の貼り紙を見たんですけど」
すると彼はふわっと微笑んだ。
「ああ、賄いの。
どうぞ、中へ」
ふわっというか、ふにゃっというか、なんだか癒される笑顔にほっとする。
何だか独特の雰囲気がある人だな。
医院の玄関には、子どものスニーカーと女性の靴が一足ずつ。
土曜の正午過ぎとあって、最終の外来患者のものらしい。
その綺麗な人に付いて、靴をスリッパに履き替え、待合室と反対側に伸びる廊下を歩く。
彼は突き当たりのドアを開けて、俺に入るよう言った。
１６畳ぐらいの部屋に、年季の入った革張りのソファセットと大きなダイニングテーブルと椅子が６脚。
椅子の一つは独身の俺にもわかる子ども用のもの。
この下宿には子どもが最低一人はいるらしい。
「院長は診察中ですが、間もなく終わります。
終わったらすぐこちらに来るよう言っておきますから、少し待っててください」
彼はそう言うと、俺に適当に座るよう促して、部屋を出て行った。
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作者名：kotorix
| 作成日時：2012年1月29日 11時
