１１．懐かれる （1/31） ページ11
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櫻井内科外科医院―――
その一階の一部と二階が、下宿屋の「さくら荘」。
これが今日から俺の家。
土曜日の午後一時すぎ。
医院はもう閉まっている。
ちょうど昼どきだが、賄いの仕事は月曜から金曜までの平日の朝晩だけでいいとのこと。
院長と大野さん、それに領は、これから上野に遊びに行くのだという。
「ぼくね、せいようけんで、ハヤシライスたべるの」
上野公園の中にある上野精養軒か。
五歳児のくせに大人びたものを頼むんだな。
「しょうくんは、いつもオムライスセットなの」
なるほど。
何となくわかる気がする。
「領のパパは、なに食べるの？」
賄い人としてはそれぞれの好みを把握しておくのも仕事のうち。
俺の問いに領は素直に答える。
「おとうさんはハヤシライス。
ぼくと、わけっこするの」
大野さんて、見た目からして少食そうだもんな。
一皿のハヤシライスを仲良く分けてる二人を想像してほっこりする。
領は、精養軒で食事をした後、国立科学博物館へ行くのだと言った。
「こんちゅうや、ほねをみるのがすき」なんだと。
あそこは俺も大好きな場所。
「いいなぁ、俺も行きたいなぁ」と半分本気で言うと、領は「いっしょにいこう」とそれは熱心に誘ってくれた。
しかし、俺はこれでも予備校の先生なんですよ。
土曜の午後は、目が血走ってる受験生の講義が２コマきっちり入ってまして。
だから仕方なく「また誘ってね」と言うと、領は「やくそく」と言って指切りげんまんしてくれた。
ちくしょう、いちいち可愛いぜ。
すっかり俺に懐いた感じの領を見ながら、院長が満足げに微笑んでいる。
「領は結構人見知りする子なんだよ。
二宮くんとは最初から気が合うみたいだね」
なんだか嬉しい。
ん…？
いつの間にか、俺って領にかなりメロメロじゃね？
もっとも俺以上に院長のデレっぷりがすごいけど。
白衣を脱いだ院長は、何というか、好青年を絵に描いたような感じ。
領に優しく話しかけてる笑顔なんか見たら、女子は確実にドキッとするだろう。
その一方で、力強い大きな瞳が、万事における彼の自信と余裕を伺わせる。
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作者名：kotorix
| 作成日時：2012年1月29日 11時
