プロローグ ページ2
「―――ああ、嬉しい。また来て下さったのですね」
反吐が出る位に甘ったるい声が、私の喉から溢れ出ていた。
脂肪に首が埋まり、致命的に肥満した男は、無骨な指を私に伸ばす。
始めに頬を撫でられ、首に触れられ、次に体を密着させてくる。
激しい嫌悪感が全身を這いながらも、私は笑っていた。
「ふふっ、あまり慌てませんよう。私はどこにも行きませんよ」
甘みを増した自身の声に吐き気が込み上げる。
しかし笑わなければいけないので、私は笑い続ける。
幼い頃に見知らぬ男に叩き込まれた笑顔は、未だに形を保っていた。
『地下遊郭 吉原桃源郷』
男の娯楽を金に変えるこの場所で、私は働いていた。
―――いや、飼われている、といった方が正しいのかも知れない。
着物から肩を剥き出し、胸を露出させ、腿を使って男に媚を売る。
延々と淡々と、この繰り返しだ。自身の忍耐強さに拍手を贈りたくなる。
「―――のう、雪」
「なんでしょうか」
低く擦れた声が不快に鼓膜を揺する。
幼い頃に適当に付けられた芸名で振り返るとは、何と馬鹿馬鹿しい。
後ろから私を抱きしめながら、彼は言う。
「今宵は―――、どうだ?」
それは、子を孕む行為の事だろうか。
精一杯の嫌悪を込め、尚且つ柔らかく甘い声を保ちながら。
私は彼に吐き捨てる。
「別に構いませんが―――もう私とは会えなくなる可能性がありますよ?」
吉原で子を孕んだ遊女は問答無用で処分される。
この男のせいで死ぬなど絶対に御免だった。
「・・・やれやれ、相変わらずガードが固い」
彼は呆れと諦めが混雑したような表情をする。それに対し、私は再び笑う。
この無垢で無邪気でどうしようもなく悪寒が湧き上がるこの笑顔に。
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もう私は発狂しそうになっていた。
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飴崎 - ルーンさん» ありがとうございます〜。現状維持できるように頑張ります! (2015年2月7日 18時) (レス) id: 69cad8d3b5 (このIDを非表示/違反報告)
飴崎 - 英さん» ありがとうございます!今すぐ取り掛からせていただきますね! (2015年2月7日 18時) (レス) id: 69cad8d3b5 (このIDを非表示/違反報告)
飴崎 - バトラッシュさん» 頑張らせていただきます!読んでくださって本当にありがとうございます! (2015年2月7日 18時) (レス) id: 69cad8d3b5 (このIDを非表示/違反報告)
ルーン - とても面白いです!続編楽しみに待ってます! (2015年1月22日 2時) (レス) id: 04550145ac (このIDを非表示/違反報告)
英 - 面白かったです!続編楽しみに待っています! (2015年1月21日 7時) (レス) id: b6fd32bf94 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:飴崎 | 作成日時:2012年8月6日 14時