落花流水【横浜流星】 (ページ4)

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episode4 ページ4

ガラガラ…

「…食べた気しないわあ…」

タクシーから降りてフラフラといつものラーメン屋に駆け込むと、
暖簾をくぐるなり店長のおじさんに顔を覚えられていた。

〝お！姉ちゃんこの間インタビュー観たぞ！”

騒々しい店内に響き渡るその声に客たちが反応して「あ～！」と顔を見て笑う
あんなインタビュー受けるんじゃなかった…
すっかりマッチングアプリでやらかした女という印象がついてしまった。

悪気は無いんだろうけど、見世物のようでいい気はしない
まあ悪いのは理想が高すぎるであろう私なんですが

カウンターの端でいつものラーメンをすすりながら生ビールも頼もうとしたがやめた。
今日はとても飲めた気分ではない
家の近所のコンビニに寄ろう。明日は休みだから飲んでしまおう

さっきホテルのディナーでコース食べてラーメン食べたのにまだお腹空いてるのか？
身体も重いしもしかして生理前かなあ…

ふらふらと歩きながらそんなことを考える
そういえば最後に恋人がいた日からもうすぐ4年か

「…寒いなあ…」

誕生日は昔から大嫌いだ
私だけの誕生日なのに。一年に一回の特別な日なのに。
クリスマスの日に産まれたことで誕生日とクリスマスがまとめられる

私の誕生日なのに弟もプレゼントを買ってもらって

特別な日なのに、特別じゃない気がして。

だから12月に入ると街を彩るイルミネーションや飾られる装飾品も
目に入ると虚しく感じてしまう

冷たい風が顔にかかると、泣きたい気分でもないのに瞳が潤ってくる
こういう時に誰か温めてくれたらまだ寂しさやら虚無は半減されるのかな

周りを歩くカップルがいつにも増して煌びやかで、凄く幸せそうに見える

『……先生？』

すれ違う人の顔などいちいち見ないものだ
せいぜい覚えているとしても服装や、背丈

顔などいちいち覚えていられない
ましてやこの大都会の中、顔など
だけどすれ違ったその人は懐かしい匂いがした

そうか
匂いは見えないものなのに、覚えているものだ

私が大学を卒業して何年が経っただろう
大学生の頃、塾講師のアルバイトをしていたのに生徒は私のことを「Aちゃん」と呼んでいた

先生

そう呼んでくれたのはたった一人、あの子だけだった

「…横浜君…？」

横浜流星。
苗字も名前も珍しい、その彼

声のする方を振り返ると

私の知っている彼は随分と大人になっていた

『…久しぶりです、A先生。』