暴走する車輪 part4 ページ5
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「どうなんだ」
「野暮なことを聞くよねぇ、キミも」
エイスの射抜くような瞳に観念したのだろうか、アイリはそう言った。
「『愛してる』なんて――造られたワタシの心に、出てくると思ってなかったんだけどねぇ」
決定的な一言だった。嘘偽りのないアイリの言葉に、二人は沈黙する。
「戦争ってさぁ、不毛だよ」
利害戦争がいつの間にか憎悪のぶつかり合いに変わって、その中でアイリヴは『造られた』。
終わりのない命。
自分をモノとしか扱ってくれない天使たち。
誰かに愛されるとか、誰かを愛すとか、そんなことは教わらなかった。しかし今、ユウ・ビスト・ヴェーアという天使に惹かれている。
ゼフィラが困ったように微笑んだ。
「彼は貴方の気持ちに気づいていないですよ? この鈍感を相手に、貴方はどうするつもりなのですか?」
「どうもしないよ」
アイリは唇を歪めて笑った。
「不器用で純粋でお人好しの、優しい子だから。ボクの気持ちになんて、気づかなくていいのさ。──ああ、その子を連れてくなら、ボクを殺してからにしてね」
「は?」
「手柄にしたいならそうしたらいい。ボクが殺されるべきって自覚もある」
「死にたいのですか」
「ユウを連れ戻しに来たんだよね? この子を失ったら、今のボクにはもう、何も残らない。疲れたんだ」
本当に……疲れちゃった……。
先程とは違った、穏やかな笑みだった。ベッドの上で眠るユウを眺めるアイリに、アイリヴの本性を見出した気がした。
「アイリヴ」
静かに、エイスが呼んだ。
「オマエは何故、叛逆した? なぜ、天帝になろうと思った?」
「……キミって、ホントにストレートだねぇ」
アイリが苦笑するが、エイスもゼフィラも何も言わない。二人とも、知りたかったのだ。元天帝の持つ、遠き神話の過去を。
その、真実を。
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作者名:ゼファー | 作成日時:2021年2月28日 15時