暴走する車輪 part3 ページ4
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一連のアイリの行動に、エイスもゼフィラも困惑するしか無かった。アイリヴは彼を慰み者として囚えていたのではなかったのか?
事実、アイリヴはユウを助けようとした。そして、敵である二人の前に今、無防備な姿を晒している。
「どうしますか?」
ゼフィラがエイスの顔を伺う。エイスもそんな彼の淡い瞳を見返して、短く発した。
「ソイツを頼む」
エイスの言葉に、ゼフィラは目を見開いた。彼が言っているのは、アイリヴを殺すなということ。それは『反逆者を許すな』という天界の掟を破ることになる。
サファイア・ブルーの瞳は真っ直ぐにアイリを捉えていて、迷うことも無く毅然として彼は言った。
「コイツは、命懸けでジブリールを救おうとした。オレ達に殺されることも分かっていて、それでも命をなげうったんだ。なのに今、無抵抗のコイツを殺して、オレたちがおめおめと天界に帰れると思うか?」
「それは……」
「ゼフィラ、オマエが見なかったことにして天界に帰るのなら、オレは否定はせん。オレはオレの誇りを守るだけだ」
「そうですね」
ゼフィラは微笑んだ。
「私の名はゼフィラ。西の領地と風の紋章を賜った、ヴェーチェルの者だ。その私が、そんな無様な真似が出来るわけがありません」
そうだ。
誇り高き自分たちが、己の犯した罪を庇われ隠しながら、のこのこと天界に帰ることなどできない。
堕天使アイリヴ。最悪の天帝であり、大罪人。天界のことを思うのならば、ここで殺してしまうのが筋だろう。
それでも二人には、後ろめたさを抱えて生きることなど出来ない。それが
たとえそれで、罰を受けるのだとしても。
「馬鹿だよ」アイリは言った。「キミらは馬鹿だ」
あれからユウに『肉』を摂らせるよりも短い時間で、アイリは意識を取り戻した。毟り取った羽根も全て再生していて、アイリがあの『アイリヴ』である事を改めて二人に知らしめることになった。
「処刑されるよ」
「貴方こそ馬鹿でしょう。あんな無防備な姿を晒すなど、元天帝の名が泣きますよ」
「しょうがないだろ」
不貞腐れた顔で座るアイリを、二人はじっと見つめる。
噂とは違い、その言動は子供のようだった。最凶の天帝などとは程遠い。
初めて会った時のように、エイスが尋ねる。
「好きなのか、コイツの事が」
アイリは曖昧な微笑みを浮かべて肩を竦めた。
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作者名:ゼファー | 作成日時:2021年2月28日 15時