#13 暴走する車輪 ページ2
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突然苦しみ出したユウに、二人は呆然とする他なかった。今まで穏やかに会話をしながら、ユウは林檎を食べていた。そのはずだった。
食べさせたのは毒ではないただの『ワクチン』。おかしなものなど入っていない。
何故。何が、どうなって? 立ち尽くす二人の耳に、乱暴に扉が開かれる音が届いた。
「何やってるの! 今食わせたもの全部吐かせてッ」
中性的な声。自分たちに屈辱を与えた、あの男の声だ。
「オマエッ、どの面下げて!」
エイスが怒りの形相で振り返る。ここは何重にも結界を張っていて、簡単に出入りできる場所ではない。一体どうやって――否、今はそんなことはどうだっていい。
ユウを苦しめる元凶たる堕天使アイリヴ。そんな彼が、どんな顔をしてここに来るというのだ。
「早く吐かせろ! 出ないと本当にその子、本当に発狂して死ぬよ!」
「オマエの言葉など信じられるか!」
怒鳴り、掴みかかるエイスを振り払ってなおもアイリは言う。
「食わせたんだろうあの林檎を! あれを効かなくしたのはボクだ! 早くしないと最悪な形で苦しんで死ぬから! 早くッ!」
その言葉に反応したのはゼフィラだった。ユウのもとにしゃがみこんで、口の中に指を突っ込む。アイリの言葉に一瞬力の抜けたエイスを振り払うと、彼はなおも叫ぶ。
「キミの短剣貸して!」
鬼気迫るアイリの声に気圧されて、ゼフィラは自身のナイフを顕現する。それを奪い取るように手にして、アイリがユウの首筋を浅く切り裂いたのは一瞬の事だった。
その傷口にアイリが唇を近付ける。
「ちょっと──」
さすがにこれには、言うことを聞いたゼフィラも耐えかねたのだろう。アイリを止めようとした彼の肩を、エイスがつかんだ。
「待て」
エイスの目は苛立たしげに細められていたが、冷静さも取り戻していた。
「アイツを救う方法を知っているのは、恐らくアイリヴだけだ」
「……そう、ですね」
頷いて、悔しげにゼフィラは拳を握る。
これはもう、アイリヴに任せるしかないのだ。
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作者名:ゼファー | 作成日時:2021年2月28日 15時