苛立ち 中編 ページ7
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「おい一哉、凄い事に成ったな。何処に行ったんだ、三神は」
「……帰ってきてない」
その後、お題クリアと認められた二人は、校舎裏へ姿を消していた。野次馬連中が付いていこうとしたが、悉く運営に阻まれていて、緋藤の伝統はアフターサービスまで含まれるらしい。
「然し、珍しいな。三神があんなに大人しい何て、何か有ったのか?」
「知らねーって!」
投げやりに答えると、今一番聞きたいような、聞きたくないような彼女の声がした。
「何をイライラしてるの、一哉」
「遅かったな、三神。告白はどうしたんだ? まさかOKだなんて言わないよな、あはは」
冗談混じりに言う桐生。理苑は横に首を振って、答えた。
「はい」
「「え?」」
「断ったけど、しつこくて。とりあえずお試しで、ってことになった」
桐生が驚きの声をあげた。意外だな、何で、と訊く横で、一哉は砲丸で殴られたような衝撃を感じた。
「其れより、彼は何部だ? ウチにあんな部員は、いない筈だが……」
「野球部」
「へえ」
桐生の無表情(ポーカーフェース)が、一瞬崩れた。それも当然、緋藤学院の陸上部と野球部が犬猿の仲であることは有名である。切っ掛けはわからないが、共に全国的に有名な強豪同士だ、きっと、下らないプライドのぶつかり合いだったのだろう。何がなんだかわからないうちに先輩に教え込まれ、自然と陸上部の人間は野球部にいい印象を持たなくなっていた。
それは、我が道を行く桐生にも洗脳のように影響していて、僅かに抵抗をおぼえさせたのだろう。とはいえ、理由もわからないまま嫌えるほど陸上部員も愚かではなく、野球部と仲のいい部員もいる。
一哉も、そんなものは下らないと思っていた、はずだった。
先ほどから一切喋らない一哉に気づいて、理苑が一哉を呼んだ。
「一哉?」
「……どうして」
理苑は一哉を見た。彼の目には、怒りと、ほの暗さと、寂しさが浮かんでいた。静かな声。一哉には珍しい、低く唸るような発声だった。
「お前そんな押しに弱い奴じゃないだろ。しつこいから折れたとか、理苑らしくないぜ。しかも野球部の奴とか、訳分かんねー」
「かず……」
「なあ、何かあったんだろっ? 理苑を頷かせた何かが、あいつにっ。何だよ、教えろよ!」
突然怒鳴った一哉に、理苑と桐生は驚いた。基本的に、一哉は穏やかな人間だ。怒鳴ることなど滅多にない一哉のそれに、理苑は言った。
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ゼファー(プロフ) - Kirariさん» ありがとうございます。これからも頑張ります。 (2021年2月8日 8時) (レス) id: 758eda2cb0 (このIDを非表示/違反報告)
Kirari - すごいおもしろかったです!内容もすごくおもしろいし、キャラも、みんな個性あっておもしろかったです!これからもがんばってください! (2021年2月7日 21時) (レス) id: 659499b88d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゼファー | 作成日時:2021年1月15日 11時