#4 苛立ち 前編 ページ6
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放送部の生徒が、マイクでお題の発表を始めた。
『赤ブロック二年生、氷凍くん。お題は《好きな人(意味は問わない)。》借りてきた人は、白ブロック二年、三神さん』
《好きな人》。
自由な校風の学校では、よくあるお題だ。ここ緋藤学院でも、毎年このお題を入れるのが伝統となっていた。かつては恋愛的な意味での《好き》であったが、近年プライバシーやいじめの問題もあり、《意味は問わない》が付け加えられていた。それでも、体育祭の異様なテンションの中、数年に一度は告白劇が繰り広げられている。
何せ、成功率95パーセント以上である。しかし、この告白は全校生徒の見守る中でのことで、断りにくいのも当然だ。それを言った一哉は、夢がないと女子に蹴られたが。
「氷凍くん、三神と仲よかったんだー」
「いがーい」
「てことはー、恒例のアレ？」
といった、女子の会話が聞こえる。
(……知らない)
理苑とあの男が仲がいいだなんて、聞いたことがない。そもそも、あの男のことを今知ったのに。
『これは確認のしようが無いので、今彼女に向かって、思いの丈を伝えて下さい。どうぞ！』
笑顔で、しかし事務的な表情で言って、放送部の生徒が男子にマイクを渡した。彼はそれを受け取り、体ごと理苑の方を向いた。グラウンドのすべての人間が、体の言葉に集中していた。
理苑も、自分より少し背の高い同級生の言葉を、静かに待っている。
一哉は、何かが不快で仕方がなかった。
『急に引っ張ってきてごめんな。しかも俺たち、全然面識無いのに。でも、こんな機会じゃねえと言えなかったんだ。だから無理言って選手にしてもらった。もし俺がこのお題を引いたら、絶対に言おうって決めてた』
(──やめろ、)
『三神。俺はずっと前から、』
(やめろっ、)
『お前のことが好きだったんだ』
(やめろ！！)
わ あ あ あ っ！
グラウンドが揺らいだ。そう錯覚するほどの歓声だった。凪いでいた空気が揺れ、混ざり、回りだす。
後ろの方にいた生徒たちも、その告白を見ようと前に押し寄せてきた。一哉も生徒の波にのまれる。理苑の姿が見えなくなった。
必死に理苑へと手を伸ばすが、届かない。
ただ見知らぬ誰かの背をかすっただけであった。
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ゼファー(プロフ) - Kirariさん» ありがとうございます。これからも頑張ります。 (2021年2月8日 8時) (
レス) id: 758eda2cb0 (このIDを非表示/違反報告)
Kirari - すごいおもしろかったです！内容もすごくおもしろいし、キャラも、みんな個性あっておもしろかったです！これからもがんばってください！ (2021年2月7日 21時) (レス) id: 659499b88d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゼファー | 作成日時：2021年1月15日 11時
