月桂樹の輪 part3 ページ14
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「『ジブリール』。オマエ、こんな所で何してんの」
エイスの言い方には棘があった。そして声には怒りが含まれていて、ユウは思わず後退る。
「今天界が戦争で忙しいことくらい、オマエでも知ってるデショ?」
ゼフィラの方も警戒心を剥き出しにしてこちらを窺っている。当然だ。突然消息不明になり、人間界で暮らしている(ようにしか見えない)ユウは二人にとって不穏分子でしかない。
「ジブリール……」
黙り込むユウをゼフィラが不安げに呼ぶ。それにも答えぬ彼に、苛立ちを覚えながらエイスがユウを睨んだ。
「おい、何故答えない」
痺れを切らしたエイスは大股で歩み寄り、腕を掴んだ時だった。
「――っ、ぅああぁぁあああッッ!」
ユウの口から激しい絶叫が迸り、身体が膝から崩れ落ちる。
「い、嫌だ、やめて! お願いッ、……だから! 嫌だぁっ!」
地面に伏せた身体を抱いて、身体を震わせる。
その尋常でない反応に、エイスとゼフィラは目を見開いた。
「やめて、や、やめてくれッ! 嫌だぁあああッッ!!」
コンクリートの上に転がり、苦しげに声を上げるユウは、涙を零しながら懇願する。
あの時と同じ感覚。しかし、以前とその強さは段違いであった。軋む身体にゾワリとした感覚が這い回る。
「いやっ、やだ、ッ! こんなの……ッ」
狂ったように翡翠色の髪を振り乱し、涙を流しながら叫ぶユウの様子に呆然としていた中、先に我に返ったのはエイスだった。
「どうしたジブリール!? ジブリールッ!」
ユウはあまりに優しすぎて意地っ張りで、何があっても笑顔しか見せなかった。どれだけ酷い怪我をしても、どれだけエイスが冷たい言葉をかけようとも、彼が笑顔を絶やすことはなかった。仲間たちはそんなユウの強さを褒めたたえていたが、エイスにとって素直でない彼が憎らしくて仕方がなかった。それがエイスがユウを嫌う理由だった。
だから、エイスの前で泣き狂い、身を捩っているユウの姿は衝撃的だった。彼の涙など、見たことがなかった。
これを異常と言わないで何と言うのか。
「ジブリー……」
「ワタシのモノにー、触らないでくれるかなあ?」
エイスが屈んで、ユウを助け起こそうと手を伸ばした時、のんびりとした声がそれを阻んだ。
その場違いな声に二人が振り向くと、銀髪の人物が歩いてくるのが見える。
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作者名:ゼファー | 作成日時:2021年1月14日 13時