月桂樹の輪 part4 ページ15
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「貴方、誰ですか」
ゼフィラが誰何の声を上げる。露骨に警戒したその声や視線も気にとめず、ゼフィラに嘲りの表情を向けた。
「だからさぁー、ソレはワタシのモノだって言ってるのぉ。言葉くらい通じてるよねぇ?」
「何ですって?」
「やめろゼフィラ!」
ゼフィラが低く唸る。翼も出しかねないその雰囲気の彼をエイスが押しとどめた。
普段とポジションが逆だった。いつもなら頭に血の登ったエイスをゼフィラが窘めるのに。しかし今日は、ゼフィラが感情をあらわにし、エイスが窘めている。
自分で思っているよりもゼフィラは動揺していることを自覚した。
エイスが切りつけるように言った。
「オマエ、『アイリヴ』だな?」
「は……?」
彼の言葉に、絶句する。ゼフィラはたとえ親友のものであろうともその発言を信じられず、目の前の男とエイスを交互に見た。
最凶の堕天使であり、最終的に粛清されたはずの
ゼフィラはもっと凶悪そうなイメージしか持っていなかったし、眼前に立つ銀髪の男は美しい、あるいは清らかとさえ思える容姿を持っていた。
――これが、悪逆非道のアイリヴなのか?
ゼフィラの困惑した表情にエイスは言う。
「容姿は女のように美しいが、惑わされるなよ。確かにコイツの文献は処分され、半ば物語のようになっているが……間違いない」
エイスの言葉通り、『アイリヴ』に関する資料は全て抹消されていた。その姿、経歴、功績でさえも。彼とて知ろうと思って知った訳ではなく、趣味として古い文献を読み漁っている際偶然、見つけたものなのだが。
ゆえにエイスは覚えていたし、ゼフィラの戸惑いも理解出来る。
目の前の彼は、ふわりと笑む。
「そうだよぉ。今は、アイリって名前だけどぉ」
可愛い――確かにその所作は、冷たい印象を与える容姿に反して、可愛いものだった。しかし彼は『アイリヴ』なのだ。その可愛らしさの裏には漆黒の魔性が潜んでいる。
ユウの悶え苦しむ姿は、『アイリヴ』のもつ力と一致する。つまりそれは。
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作者名:ゼファー | 作成日時:2021年1月14日 13時