五話 こぼれ落ちる水 part1 ページ17
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一秒もなく勝敗は決した。
受け身を取る暇すら与えず、コンクリートに叩きつけられた二人の身体。
絶叫し、おぞましさに身を捩るユウに一瞬気を取られた瞬間――二人まとめてアイリの蹴りを食らったのだ。神力すら込められていないただの蹴りだった。
その衝撃にエイスの斧槍は真っ二つに折れ、ゼフィラが持っていたナイフは地面に突き刺さる。微動だにしない二人を一瞥することも無く、アイリはユウのもとへ歩み寄った。
「ごめんねぇ。辛かったでしょぉ?」
自身が与えている苦痛だと言うのに、いけしゃあしゃあとそんな言葉を吐く。そしてユウの頭を撫でるとにこりと笑った。アイリは干渉をやめたようで、不意に楽になった呼吸に安堵しユウは必死で呼吸を整えた。
得体の知れない『何か』に身体をまさぐられるような感覚には、あの時のように狂うかと思った。
ユウに逆らう気力は微塵もなかった。始めは逆らっていた、何度も嫌だと拒んだ。しかしアイリは、その度に彼が最も嫌がる方法で身も心も痛め付けてきた。何週間もそんな日々が続いて、何ヶ月とおぞましい感覚と恐怖を刻み込まれて、陥落するのは時間の問題だった。
希望だけでなく、ユウの何もかもを壊し尽くしたこの青年があまりにも恐ろしい。タンザナイトのような青い瞳で射抜かれると、それだけで身が竦むほど怖い。
この一見可愛らしい青年に、ユウは逆らえなくなっていた。
それに、言うことを聞いていれば、アイリは優しかった。反逆して逃げるくらいなら、彼のそばにいた方が幾分かマシであった。たとえ、かつての仲間に裏切り者の烙印を押され、誹りを受けようとも。
また涙が溢れていく。ぽろぽろと涙をこぼすユウの目尻を掬って、アイリは倒れたユウを抱えて起こす。
「ねぇ、ユウちゃん」
優しい声で囁くアイリに、ユウは力なく視線を向けた。彼の表情は本性を現す前とそっくりで、打ちのめされた身体が思わずその手を伸ばす。
しかし、次に囁いた言葉にユウは驚愕した。
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作者名:ゼファー | 作成日時:2021年1月14日 13時