三月うさぎのアフタヌーンメモリーズ

第4話 ページ4

『どこ行きます？この時期だと…あ！こことかどうですか！？穴場スポット！』

って楽しそうに旅行誌をめくる彼女
もし、しっぽがついていたら全力でフリフリしてる感じにウキウキしてる

｢あ〜…それなんだけどさ｣

『…はい？』

｢…だいぶ時間あいちゃったんだけど｣

『うん』

｢…行こっか、挨拶しに｣

『…え？』

そう、あの日約束したこと
お互いの休みがとれたら、
“彼”に挨拶しに行こうって約束

パタンと旅行誌を閉じる彼女

｢…まだ、怖い？｣

真実を受け止めるのが

そりゃ、すぐに受け止めろって方が無理な話だ
大切な人がある日突然居なくなってしまうんだから

『え、でも…』

って、彼女は俺の事を気にした様子の顔をする

｢俺にとっての1歩でもあるし、
雫にとっても大切なことだよ｣

そう言って彼女の手を握る

｢ねぇ、雫はどうしたい？｣

…無理にとは言わない
ただ、折角の新しい物語がスタートしたのだから、逃げてばかりじゃダメだと思うから

…俺も、彼女も

『…会い、たい』

そう、彼女は覚悟を決めたように呟いた

｢…うん、了解｣

そっと彼女の頭をポンポンと撫でた

『…ありがとう』

｢うん、だって約束だったから｣

｢じゃあ、決まりね。休み取っておいてよ〜！｣

『うん、こじ開けるね』

｢絶対だよ、俺頑張ったんだから〜｣

『うん、頑張ります！』

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…ってな訳で、今に至る

彼女に連れられ、気がつけば…
だいぶ遠くまで来た

なんだか、実家の風景に似てるな〜
なんて思いながら、澄んだ空気を吸い込む
遠くの方で、ぴーひょろろろ
なんて鳥が鳴いていた

石畳の階段をのぼること、はや数分

やっと終わりが見えてきた

…日頃の運動不足がまさかここに来て来るとは…
少しばかり息をきらしながら
隣をちらりと見ると割と涼しい顔してのぼっている

｢若いね〜｣

なんて呟けば
『なんだかおじさんくさいですよ』

なんて彼女は笑う

…おじさんですから

って返すと、

いやいやまだまだですよ

…なんて平凡な日常会話をしながらのぼる

｢…っしゃあ〜ついた〜｣
『…さすがに疲れましたね』

ふぅ、とお互い息を整えると
ふわりと香るあまーい香り


…あっ

身に覚えのある香りに
心の中で納得してしまった

…この香り…

金木犀か

そう、そこには沢山の金木犀の木があった

高台にあって景色も良くて

“彼”の場所には
彼女の香りがした

…甘い甘い金木犀の香り─

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