三月うさぎのアフタヌーンメモリーズ

第16話 ページ16

時間が経つのはあっという間で
気がつけばあたりは真っ暗
君との楽しい休日も終わりを迎える

こう陽が暮れるのがはやいと、
なんだか少し寂しくなる
そしてやってくる勿体なさ

夏の夜と違って、一日が短く感じる
同じ一日なのに、時間は同じはずなのに
秋や冬の夜は、不思議とあっという間に
感じてしまう

ふと、彼女をみると、元気な姿にホッとした
なんだか吹っ切れた感さえあった

…良かった

都会に帰ってきた僕らは
夕飯を何にしようかなんて話をしながら
街を歩く

さっきまでいたところと違って
人通りも多いし、華やかだし、なんだか賑やか

これはこれで好きだけど
いや、慣れたと言った方がいいかもしれない

ただ、今日みたいに
のんびり過ごすのもいいなって

だって“こっち”は
みんな急いでいる気がするから

たまにはゆっくりするのもいいよね

なんてことを考えていると

ふと、甘い香りがした
本日何回か嗅いだ香り


『わぁ〜！金木犀！』

道に植えられた数本の金木犀が
満開に咲いていた

それはそれは甘い香り

｢…雫の匂いがする｣

ふと零した言葉にハッとした
今のはかなり気持ちが悪い
またやってしまった
本日2度目の失態だ

なんて、後悔していると

｢それは〜江口さんもでしょ〜｣

ってにっこりと笑う

あ、そっか、同じ芳香剤買ってたっけ

…なんだかすこし照れくさい

いつかは俺から彼女に
何か香水をプレゼントしたいな、なんて

…キザだろうか
…でも、ほんの少しだけ

俺が選んだ香水を君につけて欲しいなって思う

…この気持ちは…
少しばかりの独占欲、かな

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
金木犀の香りで、
一つだけあることを思い出した

｢あーー！｣

突然の大声で驚いたのか、
彼女がびくりとして俺を見る

『どうしました？忘れ物？』

｢あ、いや…忘れ物ってか、忘れてた｣

『なにを？』

｢雫、今から空いてる？｣

『空いてるもなにも、今日一日は…』｢じゃあ、行こう！！｣ 『え！？どこに、あっ、ちょっ…』

彼女の手をとり少しだけ、歩幅が大きくなる

…すっかり忘れてた

大事な、大事なあの事を！

この季節が来たんだから…

彼女、喜んでくれるかな

ズンズンと歩いていく
もう目的地は決まっていて

ここからでも遠くなくて、
歩いて行ける距離

こうして俺達はとある場所へと向かった───

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