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｢Aさん｣
『…ディラン』
｢俺も一緒に行きます｣
『わかった。でも、見てるだけだよ。手出しはしないで。』
｢はい｣
途中で出会った部下のディランと共に階段を飛び降りて行く。
地下の1番手前。地下牢の中でも辛うじて1番環境の良い場所に先輩は拘束されていた。言われた通り、まだ眠ったままのようだ。
しんぺいさんに貰った牢の鍵を使って中に入る。ディランは牢の外に待たせたままだ。
『…先輩』
先輩のフードを外しサラリと髪を撫でる。
｢…っ、っぁﾞ、｣
先輩は途端に目を覚まし、暴れ出す。手錠やら鎖やらがガチャガチャと音を立てる。
鍵をポケットから取り出し、先輩の手錠を外した。
と同時に腹に鈍い痛みが走り、その後すぐに頭や背中にも痛みが走る。
『…ｯｸﾞ、せんぱっ!!』
どうやら先輩に腹を蹴られ、その勢いで檻に激突したらしい。
その事を理解して間もなく、先輩の両手が私の首に掛けられた。
徐々に力を込められ、呼吸が苦しくなる。
『…っ、せん、ぱ、っっ、』
｢Aさん！｣
『ディラ、きちゃ、だめ、』
中に入ってこようとするディランを制止して、ひたすら先輩のことを呼び続ける。
『…い、せんぱ、っ、ゾム!!』
｢…っ!!｣
普段はしない名前呼びをすると、先輩の手が少しだけ緩んだ。
その隙に先輩の頬を引っぱたき、先輩がよろけた所をぎゅっと抱きしめる。
自分の肩口に男の人の顔があるという異常事態に心臓は早ったが、今じゃないと心を抑え、先輩の頭を撫でる。
『せんぱい、大丈夫です、落ち着いて。私がいますから。』
｢…っぁ、A、俺、っ！A!!｣
先輩が元に戻ったことを感じた安心感からか、私は意識を落とした。
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作者名：クルト | 作成日時：2022年6月23日 23時
