【d！】翡翠を見つめて (ページ20)

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そこからのことは思い出したくもない。ハルタは蹴られ殴られ撃たれ。ひたすらに暴行を加えられた。

遂にハルタは動かなくなった。

涙は流れなかった。

｢コレはあっちに持っていけ。なぁ、A。絶望しているか？｣

『…うるさい』

大切な最後の家族を失って絶望しないわけがなかった。

その日の夜、私はシエロから脱出を試みた。

脱出をしようという気概が湧いたのはハルタのお陰だった。
ハルタは最後、意識を失う直前に｢生きて｣と言った。はっきり聞こえたわけじゃないけれど、きっとそう言った。

地下牢から外に向かう途中で警報が鳴り、追っ手が来た。なりふり構わず走った。
何度か銃弾が身体を掠めたし、ひたすら走り続けて体はボロボロになった。

銃声が聞こえなくなり、辺りの土地勘もなくなった頃、私は地面に倒れ込んだ。流石に限界だった。

｢お前、大丈夫なん？｣

『…っ、誰』

｢……訳ありみたいやし、助けたる。俺と一緒に来い。｣

行くあてもなかった私はその手をとった。

これが私と先輩の出会いだった。