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しかし力の差は歴然でびくともしないので仕方なく声を掛けてみる。
｢ゾムさん｣
｢いやや｣
｢まだなんも言ってないのに……そっち向きたいから離してもらってもいいかな｣
｢……｣
無言は肯定ととる主義なので緩まった腕を離して、ゾムさんの方を向けば何故か不安そうに瞳を揺らすだけだった。
｢私、何処にも行かないよ。行きたくても行けないだろうから。｣
少しだけ背伸びをしてゾムさんの頭を撫でる。そうすれば
｢そうやなくて、消えそう｣
と言うので可笑しくて笑って
｢ますますないよ、私魔法使いじゃないもん｣
と言う。そうすれば今度は撫でる手を掴まれてそのままゾムさんの方へ引かれてしまって彼の胸に飛び込む。ふむ、どうやらゾムさんは寂しがり屋のようだ。彼の距離感にも少しずつ慣れ始めている。それにしてもかなり懐かれた気がするのは気のいだろうか。いや、懐かれたといえば失礼だな、気に入られたのか、と片隅の方で考えていれば、
｢なんか、だって風で吹き飛ばされそうやし、さっき医務室で寝とったときもこのまま目開けんのやないかって思うぐらいやった｣
｢……私はそんなおとぎ話のお姫様みたいな事にはならないから。大丈夫。安心して｣
ゾムさんはそういえば確かめるように抱き締めている力を強くしてしまって、私は苦しくて腕の中で藻掻いた。暫くそのままで窒息直前にふと我に返ったゾムさんは、ばっと両手を上げた。
｢……すまん、いきなり｣
｢けほっ、、力強すぎて息が止まるかと思った｣
｢ごめん、大丈夫か？｣
｢あぁ、うん大丈夫。ほら、消えないでしょ、｣
両手をあげるゾムさんの目の前でくるりと回転してみせる。それを見てゾムさんはおん、と心なしか弱々しく笑って、じゃあ俺、行くわ、と言ってくるり、と方向を変えて歩き始めてしまった。広い背中に向かってありがとう、と言えば片手を挙げて返してくれるのだった。
『嘘ばっか、みんないつか、』
遠のく背中から、そんなふうに細く聞こえた。
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作者名：こゆき | 作成日時：2019年9月16日 18時
