81 ページ42
頭の中では理解している。グルッペンさんはきっと私の言葉を受け入れてくださるのだろう。けれど私は不安で不安で仕方なかった。彼の顔が過ぎる、いや、あまり顔も覚えてはいないのだが。心のどこかで彼がいつも邪魔をしていた。
多分私は、いつまでも彼に囚われて生きていくのだろう。
秘密を告白するのは、自らの罪を懺悔するような気持ちになった。この話をしたのは初めてで誰にも言えずにいた事だったせいもあるだろう。殊更に怖くなってグルッペンさんの目を見れない。怖くてずっと下を向く。気付かないうちに呼吸が早くなっていたようで胸の前で固く握った拳を掴まれて少しだけ彼の方へ身体が傾く。背中をトントンと叩かれたり大丈夫だ、とかそういった声が聞こえてきた。グルッペンさんはそうやって私を落ち着かせて全て吐き出すのを待っているようだった。彼から嫌な声も聞こえてこないので大丈夫だ、と頭を切替える。
それでも怖くて、話しきっても顔は上げなかった。
｢そうか｣
グルッペンさんの声が降ってくる。そして、顎に手を添えて私の頭を持ち上げる。私は怖くてぎゅっと目を瞑る。
｢A、目を閉じるな。俺の目を見ろ。｣
いつも通りの落ち着いたバリトンはやはりするすると私の中に流れ込む。素直に受け止めることが出来たのでそっと目を開く。
地平線へもう少しで沈み込みそうな西陽が彼の瞳のように赤く燃えている。世界が彼の色、ただ一色に染め上げられている。視線はグルッペンさんに。その瞳は慈愛に満ちているようだった。
｢それがどうした。それで、お前の本質が変わるのか。誰もがそれぞれ体質が違う。お前の体質が少し珍しいぐらいで、俺が態度を変えると思っていたか？｣
柔らかい視線は私に降り注ぎ、彼の声色も私を包み込む。言葉こそ突き放すようだが、グルッペンさんの気持ちが手に取るようにわかって酷く安堵する。
この人は、やっぱり大丈夫なのだ。私をちゃんと見て受け入れてくれる。
昔、同じようなことを誰かに言われたような気もしないでもない。その誰かも、やはり優しくて暖かかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 38人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：こゆき | 作成日時：2019年9月16日 18時
