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｢……気に食わんな、その顔。｣
少し不満げな声が頭上から降る。お辞儀をしていたので反応が遅くなってしまう。どうやら私の反応を待っていたわけではないようで、腕を引かれて書記長執務室を出る。トントン様が｢危ない｣と仰るのを聞いてか、廊下を少し進んだところで扉が閉まるのと同時に一旦立ち止まる。突然立ち止まるので対応しきれずグルッペンさんにぶつかったようで、慌ててすみません、と零す。
｢……お前、誰にでもあんななんか｣
｢………………へ？｣
｢距離感が近い。いや、まぁ、昔からそうやし……｣
彼はまた私を見ながら違うものを見ている。懐かしいものを見るような、そんな目でやはり声色と一緒で眉を顰めている。記憶がはっきり残っているはずの私を彼は見つめているのだな、と直感した。その目線を向けられているのは私ではないのだ。それに気がつくと少し胸の奥が傷んだ。何故だろうか。
｢……まあいい、行くぞ。｣
腕を引いて、答えない私を連れ去る。
記憶が戻れば、その目は私のものになるのだろうか。
いや、そもそもこの人のそばにいれることや｢たまたま｣昔馴染みだったのも最早奇跡としか言い様がない。自分の浅ましい考えに嫌気がさして私は考えることをやめた。
庭に着くとベンチのある中央部に連れてこられてそのままベンチに座るグルッペンさんの隣に腰かける。
しばらく黙って座ったままでいた。グルッペンさんの隣で庭の花や空を見上げては、ずっと昔にこんなことがあったような気になった。
ぼうっとしているとグルッペンさんが口火を切る。
彼の声が私の鼓膜を揺らす。
｢俺とお前は家が近くでよく遊んだりしていたんだぞ。お前が遊べとよくせがんで｣
｢……そうでしたっけ、｣
｢なあ、お前何があったんや。｣
｢、それは……｣
｢どうしても言われんことなんか。俺じゃ、｣
｢いえ、その、突拍子もないことを言って、信じていただけるか｣
｢お前が話すことに嘘があるとは思えんぞ。お前は昔から嘘をつくのが下手だからな。｣
｢……では、｣
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作者名：こゆき | 作成日時：2019年9月16日 18時
