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｢……昔のことは、ごめんなさい。曖昧で。ぼんやりとしか覚えていないんです。凄く傷ついたことがあって、だけど。だけど、彼が貴方かもしれないと信じたい。だから私も、貴方を知りたい。｣
目の前の揺らめきに、困惑しながら仕事をしない頭を使って、ありのままの私の精一杯の誠意と気持ちを込めて言い切る。そんな私に総統様はそっとヴェールを取ってしまう。思わずびくり、と肩を揺らすがそんなのは直ぐにどうでも良くなった。総統様の目が、直接私の目を繋ぎ止める。その眼差しが私を吸い込むのが分かった。
その瞬間、その何処までも真っ直ぐな眼光が私の目の前を照らす。盲目だった私に光を灯す。まるで世間知らずが本の中でしか知らない世界に一歩、踏み出したような。そんな感覚なのだろうか。
私はその光に恋をしていたのかもしれない。自分の知らぬ内に焦がれていたのだろう。きっと誰かが私を連れ出してくれることを待ち続けていた。そうして、知らぬ振りをしながら自分から閉じこもった殻の中で毎日、誰かを待っていた。
その願いが、今この瞬間叶った気がした。
｢そうか｣
と総統様は一言。安堵の表情と共に軽く息を吐き出す。良かったと言わんばかりだった。綺麗なお顔に満ちるのは笑顔で、それは私を安心させる。私はずっとこの人を待っていたのだ。そんな気持ちでいっぱいだった。
･
｢お前も一緒に飲むぞ｣
その後、そう仰るので私がカップを取りに戻ろうとすればここにもある、と引き留める。その内にトントン様も帰っていらして総統様の顔をご覧になられてはやれやれ、とため息をつきなさるのだった。
総統様のお隣に座らされて私はもう一度紅茶を飲んでいた。お菓子の方は｢流石にさっき食べたのでお二人でどうぞ｣と遠慮した。総統様は心底幸せそうにお菓子を頬張っては、美味しそうに召し上がるのだった。
｢それでA｣
｢んん、はい｣
｢俺の事はなんて呼んでくれるつもりなんだ｣
突然名前を呼ばれて、また噎せそうになりながら応答すれば、期待に満ちた眼差しを向けられる。ヴェール越しでも効果音が聞こえる程の目に、そうだったと頭を抱えた。
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作者名：こゆき | 作成日時：2019年9月16日 18時
