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｢……あの｣
と口を開く。出会って一言も喋らなかった私が口を開いたのにニット帽の男はすこし目を開く。背後の男もどうやらこの期に及んで私が喋り始めるとは思わなかったらしく、少し肩を揺らす。
｢……なんや｣
｢あの、ここは王族の先祖の皆様をお祀りしている御社の敷地内です。｣
そう口走る私に目の前の男は明らかに顔を歪める。なんだこいつとでも言いたいようだ。
｢ここは神聖な場所です。ここで争うのはやめてください。私はここの管理者です。もし荒らすのであれば容赦しませんよ。｣
相手に自分の気持ちを伝えたい時は堂々と、はっきり口を開いて喋るものだ、と学校の先生に教わったことを思い出す。まさかこんな所で役に立つとは。そんな風なことを考えていたら、
｢お嬢さん、あんた自分の立場がわかっているのか。私の気持ちひとつでお前の命は消えるんだ。｣
頭上で男の声がする。すると前からも｢そうだ、あんたまさかあほなん？｣と声が聞こえてくる。失礼な。
｢あほでもなんでも有りません。私はここの管理者。ここを守り、管理し、常に御社様に御奉仕する身です。私は私として当然のことをしている迄です。｣
胸いっぱいに息を吸って出来るだけ声を張って言う。それから、
｢あなた方は、ここを荒らすおつもりですか。｣
そう問い掛ける。すると頭上の男は苛立ったように言い放つ。
｢そうじゃなけりゃこんなことしねえだろう。｣
｢へえ、言いましたね？私はここを荒らすなら容赦しませんよ。｣
それを聞いた私は徐に胸元にしまっていたシールを男の腕に貼って腕時計に手を伸ばす。
このシールは電気を放つことが出来る、いわゆる超小型スタンガンのようなもので巫女が身を守る為に使う為に宮内庁から配布されたものだ。
ちなみに腕時計に仕掛けをしてあって文字盤を動かすとスタンガンのスイッチを入れることが出来る。
初めて使うのでどうなるかは分からないが、とにかくこれしか方法がない。文字盤を触り、カチッと音が鳴る。瞬間、男は気絶した。かなり強い電流が流れたらしい。
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作者名：こゆき | 作成日時：2019年9月14日 13時
