RAINBOW

1 CORAL -PEACH- ページ36

思えば私達は、ケンカをしたことがない。

小さいケンカはあるよ？

でもどちらかがすぐに謝っちゃうし、長続きしない。








「A、ちょっと散歩に行ってきていい？」

「…だめ。」

そう言ったらすぐに太輔は、うれしそうな笑顔で、

「お願い。
ちょっとだけ！」

って、顔の前で手を合わせて可愛い顔でお願いしてくる。

今日は朝からスタジオに籠って、工業製品のカタログ用の写真を撮らなきゃいけないのに。

まだ昼過ぎなのに、散歩はもう３回目だよ？

しかも１回行ったら、１時間近く帰って来ないし。

どうせ、菫と行くんでしょ？公園へお散歩。

で、砂場だのブランコだのって、私が呼びに行かないと帰って来ないくせに。

「もう２回も行ったじゃん、今日。」

「だって、菫がお砂場道具持って誘いに来たら、断れないじゃん。」

さっきまでお昼寝してたはずの菫は、勝手に起き出してはお砂場用のスコップを持って、太輔のスタジオに行っちゃうから。

断ればいいのに、溺愛モードの太輔にはとてもそんなことはできないらしい。

「じゃあ、行ってきたら？」

って、結局許してしまう私も相当甘いけど。









あれから私達はすぐに結婚することになった。

何故なら、予想外にも子どもを授かってしまったから。

実はもう、太輔が元の世界に戻ってた頃から、彼女は私のお腹の中にいたらしい。

気付いた時にはもう、妊娠５ヶ月になっていて。

入社１年めなのに産休に入らなければならない私は、１人で思い悩んでたんだけど、

子ども好きな太輔が、毎日楽しそうにお腹の子に話しかけるから。

だから、悩んでたこともどこかに行っちゃうくらいの、楽しい妊娠生活だった。

春には女の子が生まれて、名前を菫(すみれ)と名付けた。

太輔の好きな花なんだって。









というわけで、結婚してもうすぐ２年が経つのに。

私達は一度もケンカをしたことがない。

その日の夜、ベッドの中で唐突に聞いてみた。

「太輔は私の気に入らない部分とかないの？」

「何？いきなり。」

って、太輔は眠いはずなのに、こんな私の質問にも優しく対応してくれる。

「ないよ。」

「ないわけないじゃん。
もしかして、我慢してる？」

「じゃあAは？
俺に腹が立つところとかないの？」

そう来たか。

私から質問してんのに。

「…あるよ、いっぱい。」

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