我が身をつねって【冨岡義勇】

弍拾 ページ20

「では、藤の家と隠についてご説明いたします」



まだ食事を食べている彼らを前に、私は言った。
竃門くんと我妻くんは律儀に食べるのを止める。
(嘴平くんに関しては言うまでもなく汚く食べ続けているが)




「食べながらで結構ですよ」



そう一言申し上げると、竃門くんと我妻くんは嬉しそうに出されていた天ぷらを頬張った。




「まず、この藤の家…藤の花の家紋を掲げている御家(おいえ)は、以前鬼殺隊に救われ、その恩義を食事や湯浴(ゆあ)み場、寝床を提供してくださることによって返してくださっている方々です。
必要であれば医者も呼んでくださいます。

私達は鬼を刈り、人々を助けることを仕事としているのですから、それに恩義を感じていただく必要は決してないのですが、藤の家があることが私達にとって、どれほど有難く命綱になっているか、とても計り知れません」





竃門くんと我妻くんは、口を動かしながらも真剣にこちらの話を聞いている。
嘴平くんも、どこか気になるところがあるのか、汚く食べながらも耳を傾けている様子だ。




「残念なことに、隊員のなかには藤の家で横暴な事を申されたりする方もいらっしゃるようです。
貴方達に限ってそのようなことはないと思いますが……、藤の家は鬼殺隊員にとって、なくてはならない憩(いこい)の場です。その有り難みを忘れることなく、決して驕(おご)ってはいけません」




竃門くんはゴクっと口に含んでいた食べ物を飲み込むと、「はい！」と返事をした。

我妻くんと嘴平くんも、返事こそしないものの何かを理解したという真剣な顔をする。




「あとは、隠ですね。負傷を負って動けない場合、話せない場合、怪我を負っていて動かない方がいい場合も彼等を呼べば近くの藤の家、もしくは鬼殺隊の蝶屋敷……医療所のような場所に運んでくださいます。今回は竃門くんが村の子供達と力を合わせてなさっていた埋葬などの事後処理も、隠に頼めば私達がやるより丁寧かつ迅速にして下さいます。
彼等の仕事はいわば、鬼の存在を隠蔽することです。
本来でしたら鴉が教えてくれるのですが、すこし意地悪をされてしまったようですね」




困ったものです。と肩をすぼめる。



「いいですか、怪我も病気も、決して無理をしてはいけません。貴方達がこれから救う命の灯火(ともしび)を消してしまうことになるのですから」

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