21. ページ21
.
バーを出てからお互い特に話すこともしなかった。
これから他人になるわけだし、今更何か言うこともないかなって話しかけなかったんだけど。彼女は話すのも上手だけど決して話したがりではないから、いつも俺が振って会話がスタートしていたから。その俺が黙ってしまえば会話もないわけで。
アパートが見え始めてからは、彼女の顔も見られなかった。女々しいけど、泣いてしまいそうだったから。こんなに近くにいるのに、触れてはいけないなんて。
最後の挨拶もせず、自室の扉に手を掛けたときだった。
「…あの部屋での言葉は、遊びですか？」
「…え？」
「……彼女にしてください。」
彼女と過ごした空間で、あの部屋なんて呼ばれそうなのは今日のVIP室くらいで。そこで彼女が疑問を持ちそうな言葉も一つしかない。
最初のうちは離す気なんてなかった。
好きになっちゃったんだから、自分のものにしたいって思ってた。
でも、一緒に過ごしていくうちにこんなに素敵な彼女なら俺が身を引いた方が、昼間の世界で生きて行った方が幸せになれるんじゃないかって思って。今日他人になるつもりだったのに。
仮の関係になったときに俺が冗談で言った言葉をそのまま繰り返した彼女。確かに彼女から聞きたかった言葉で。自分の気持ちが抑えられなくなって、そのまましゃがみ込んだ。
「…流石の深澤さんでもこの展開は予想外だわ。」
阿部ちゃんからも俺からは離れた方がいいよって最後にも釘を刺されたのに。それでも俺にこんなことを言ってくれるなんて思ってもみなくて。もう、決めた。彼女の事は、絶対に離さない。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 986人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「SnowMan」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：しぅ
| 作成日時：2021年5月10日 21時
