お隣さん.26 ページ26
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「真っ青になって帰ってったよ。」
「はー、終わった終わった。
もう薬は勘弁だわ。」
「上村さんもありがとうね。
もうふっかには関わらないのが身の為だよ。
あの女がそう簡単に引き下がるとは思えないし。」
女性が去った後、けろっとしていつもの笑顔を見せた深澤さんは何もなかったようにホールまで戻ってカウンターで阿部さんと話し始めて。
阿部さんにそうは言われたけれど、どうしても聞きたいことがある。さっきの深澤さんの言葉の真意が知りたい。自惚れでもいい。本気なわけないじゃんって言われたっていい。それでも、1%にも満たない可能性を信じてみたくて。
一緒にアパートまで帰ってきて、彼が自室へと入る前に、投げかけた。
「…あの部屋での言葉は、遊びですか?」
「…え?」
目を見開いて、こちらを振り向いた深澤さん。
初めて見る、深澤さんの表情。
私に対して余裕な笑み以外の表情を向けたのなんて、出会った日の辛そうな顔か、疑っている顔くらいしか知らない。
「……彼女にしてください。」
あの日彼は私にそう言わせたいと笑った。
あの時はそうはならないって謎の自信があったけど、流石百戦錬磨と自分で言うだけあって。彼は女心を分かっていて、どうしたら靡くのかも熟知しているんだと思う。
私の、完敗だった。
「…流石の深澤さんでもこの展開は予想外だわ。」
ちょっと待って、と言ってしゃがみこんだ彼。
また具合が悪くなったのかと近づいたら、腕を引かれて。
「んっ…。」
「…いい顔。
とりあえず、話は中入ってからね。」
ちゅ、とキスを落とされた。
そのまま何かを言う前に深澤さんの部屋に入れられて。
深澤さんはどこかへ電話を掛け始めた。
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作者名:しぅ | 作成日時:2021年4月30日 7時