・ ページ29
あの木陰。万次郎と私の思い出が沢山ある木陰。フェンスを乗り越えたら、木に背中を預ける万次郎がいた。私の右隣はいつも万次郎がいた。彼にかける言葉はひとつしかない。
｢おやおや、佐野君サボり？｣
心底驚いた顔をした万次郎と目が合う。隈を作って、あの頃よりも痩せた万次郎。どこか別人みたいだけど、私を見るその目はあの頃のまま。私と同じように手には袋を抱えて。12年経っても忘れない。忘れた日なんてない。全部、全部覚えてる。万次郎の事は全部覚えてる。
｢そういう依田サンだって。｣
万次郎の左に立って袋を広げた。
｢じゃじゃーん！今日はこのまったり空間にお菓子を持ってきましたー。｣
いつだかのように袋を開けて座る。
まさか万次郎もここにいて、同じお菓子を買ってたとは思わなかった。
お菓子を食べれば隣で万次郎も食べる。お互い、好きだと言ったあのお菓子。うん、美味しい。隣で万次郎は泣いていた。知らないところで君はこんなにも苦しんでたの？
ゴシゴシと涙を拭いて、あの時みたいに駄べり出す。
ああ、隣で万次郎が笑ってる。あの頃みたいに。
何があったの？とか、何も聞かないよ。
｢そーだ！絵しりとりしよ！｣
｢大人になってまで絵しりとりかよ。｣
ガリガリと木の棒で地面に絵を描く。
｢相っ変わらず下手だなぁ。｣
｢12年経った画力だよ。｣
｢毛程も進歩してねぇじゃん。｣
｢中学の時も画伯だ何だって言ってたけどさ、気付いてるかい？万次郎も人の事は言えないんだぜ？？｣
｢うっせ。｣
｢あー、ソーダ飲みたくなってきた。｣
｢自由人。｣
｢万次郎は飽き性。｣
隣を見れば既に飽きたと言わんばかりに木の棒を投げていた。最速のジ・エンドだよ。
｢あ、見て！サッカーやってる！｣
｢ホントだ。｣
｢球技大会かな？万次郎もサッカーだった。ボールが弾丸みたいだったよ？ゴールキーパーの子カワイソーだった。"キャプテン翼にオレはなる！"って言ってたね。｣
｢Aはバスケだった。マジで経験者かよってくらい上手かった。"私、桜木花道になろーかなぁ"って言ってたな。｣
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 138人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゴリラの娘です - 素敵な作品ありがとうございます(*- -)(*_ _)ﾍﾟｺﾘ。 (2021年10月16日 1時) (
レス) @page25 id: dfc5bee49e (このIDを非表示/違反報告)
あう(プロフ) - ごりらさん» ありがとうございます！気に入っていただけて私もとっても嬉しいです！！ (2021年9月19日 21時) (レス) id: 077184ce48 (このIDを非表示/違反報告)
ごりら(プロフ) - もうめちゃめちゃ好きな作品でした！完結おめでとうございます！素晴らしい作品をありがとうございました！！ (2021年9月19日 19時) (レス) id: 0c5c330aa8 (このIDを非表示/違反報告)
あう(プロフ) - りんごさん» うわぁ！ありがとうございますっ！！ (2021年9月18日 12時) (レス) id: 077184ce48 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - めっちゃ面白かったです！ (2021年9月18日 11時) (レス) id: 15d4b06566 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あう | 作成日時：2021年9月17日 16時
