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｢お疲れ様でしたー失礼しまぁす｣
｢うぃー｣
最悪なライブの最低な余韻に浸りながら後片付けを済ませ、メンバーやスタッフさんに挨拶をしてライブハウスを出る。外はもう深い藍色の闇に包まれていて静寂が支配する路地を、ぽつりぽつりと灯された街灯だけがほのかに照らしていた。
挨拶に反応貰ったの久々だなあ、なんて何となく考えながらワイヤレスイヤホンを耳に入れる。愛しのショッピくんのシングルアルバムの曲を再生しながら、久しぶりに挨拶を返してくれたことに浮かれて鼻歌交じりで帰路に着いた。
｢……ッあ、あの、Aチャン…ですよね……？｣
耳元から聞こえる推しの甘やかな歌声に酔わされ上機嫌に歩いていると、帽子を目深に被った男に突然腕を引かれる。
引っ張られるまま倒れ込みそうになるも、帽子の男が抱き締める様にして支えてくれたおかげで倒れずに済む。
着痩せするタイプなのだろうか。一見細身で女性のように華奢に見えたが、私が倒れ込んでもビクともしない体幹を持ち、それに案外筋肉もついている。何かスポーツでもやっていたのかもしれない。
｢ほ、本物や…！お、俺、Aちゃんの大ファンで…ずっと好きやってん。最近は忙しくてライブ行けてなかったけど、それでもグッズは全部もってて……｣
そう興奮した様子で捲し立てた男は、付けていた白いマスクを指でずらし紅潮した頬を顕にした。支えるために腰に回されていた腕を、ぎゅぅ、と締め付けられる。力が強くて痛、と声を漏らすも男は気付いていないらしく、興奮したようにぐいぐい顔を近づけてくる。
｢へ、へぇ。そうなんだ。じゃあ握手してあげようか？写真も撮る？写真撮るなら帽子外した方がいいかも｣
数少ない自分の熱狂的なファンに会えたことが嬉しくて、緩みそうになる口角を引き締める。本当はファン個人に特別なことをするのは禁じられているのだが、ここまで好いてくれているのなら少しくらいサービスしてあげてもいいだろう。
｢いえ、結構です。だって……握手や写真なんかよりも、もぉっと素敵なモノが手に入るんやから｣
困惑の声を漏らすよりも前に、何か柔らかいもので唇を塞がれる。｢キスされた｣。突然のことすぎて状況が理解出来ず、その事実に気づいたのは口内に錠剤のようなものを舌で無理矢理押し込められた時だった。喉奥に押し込められ、反射的にその錠剤を飲み込んでしまう。
しまった、そう思った時にはもう遅く。男は満足そうに口角を吊り上げた。
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作者名：素敵な作者様たち | 作成日時：2024年4月13日 9時
