【刀剣乱舞】ハローハロー異能者サン【文豪ストレイドッグス】

初めまして 六項目 ページ8

静まり返っていた城壁の内側に、月の光が注ぎ込む。見事な、満月であった。

そんな情景とは正反対にここ...本丸には血の臭いが立ち込めている。
城壁にこびり付いた血痕、切り裂かれた畳、吹き飛ばされた襖...ほんの数時間前に、ここで起こった戦いの激しさを見事に表していた。

血飛沫の飛び散っている襖に、一人の影が映り込んでいる。その者はこの本丸の初期刀...名を、加州清光といった。
細い腕に負っている切り傷のなんとも痛々しいことか...彼は唯一破壊を免れた縁側に腰掛けて、空に浮かぶ満月を呆然と見上げていた。


「...加州の旦那。そんなところにいると、風邪を引くぜ？」

「...薬研」


そんな彼に声を掛ける者がいた。
彼は加州が顕現して、初めて出会った短刀...薬研藤四郎である。彼もまた、自身の腹部に酷い刺し傷を負っていた。血は止まっているようであったが、まだ塞がっている訳ではない。
加州は傷口を視界に捉え、ふぃと再び空へと視線を戻した。


「...薬研こそ、寝てないとダメじゃん。悪化しても知らないよ」

「はは！これくらい大したことねぇよ」


加州の心配を薬研は豪快に笑い飛ばし、「隣、いいか？」と問い掛けた。何時までも答えない加州の反応に、肯定と受け取ったらしい。
薬研はよっこらせ...と彼の隣に深く腰掛け、同じように空を望む。


「...俺、主を...守れなかった...！」

「...ああ」


数時間前、この本丸を突如検非違使が襲撃した。腹を貫かれた主である少女の姿が、脳裏に強く焼き付いている。彼女を庇いながらゲートへと飛び込んだ鶴丸たちの後を追おうにも、そのゲート自体が検非違使によって破壊されてしまい、追い掛けることも出来ない。

検非違使は殲滅し終えたが...自身の主が今、生きているのかさえも分からなかった。


「手を...掴めなかった...！」

「...ああ」


加州は握り締めた拳で、縁側を強く殴った。
その紅い瞳からは涙が溢れており、ボロボロと彼の色白い頬を伝っていく。

何も出来なかった己が...許せなかった。


「主、生きてる...よね？死んでない...よね？」


涙で潤んでいる視線が、薬研に突き刺さった。加州の問いに、彼は何も言えなかった。主が生きているかなんて...薬研にも分からない。


「...分からねぇ。が、俺たちはまだ人の身を保てている」

「でも...！」

「...信じようぜ、あの人を」


そう言って儚げに微笑む薬研。


「今の俺っちたちには、それしか出来ねぇ...」


その瞳から、涙が溢れた。

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