5話 独り ページ7
「...それでね!?
そのマシロが朝ご飯を作ってくれてさぁ...ほんっとうに美味しくて美味しくて!
朝も可愛い声で“お、お早うございます...お兄さま”だってさぁ〜...こんなに素晴らしい妹を持てて、俺はとても幸せ者だよ!」
『そ、そうですね...』
今頃野党たちを相手取っているであろうシュウさんを待つ為、僕たちは初めにいた集合場所まで戻ってきていた。
道中シュウさんから逃げてきたのか、何人か襲い掛かってきたのだが「可愛い弟に怪我を負わせたんだ...獲物を獲っても、シュウは怒らないよね」と一蹴...文字通り、千切っては投げ千切っては投げていた。
それから約十分が過ぎ、僕の頭はコウさんの妹自慢話でいっぱいになってしまっている。
これが俗に言うシスコンってやつなんだなぁ...と楽しそうに妹さんの話をする彼を見ながら、僕は心底そう思った。
...その時。
___...やだ
『...え?』
コウさんの熱弁に悪いが苦笑していた僕の耳に、誰かの声が響いた。
咄嗟のことで小首を傾げている僕に、コウさんが「どうしたんだい?」と不思議そうに此方を見てくる。
...コウさんの声、では無さそうだ。
では、誰の?
___...もう、独りは嫌だ
『...っ、誰!?』
何処かで聴いたことのある、誰かの声。
それは毎晩のように見る、彼の男の子のものだと...何故か、僕は直感した。
視界の隅では、コウさんが突然大声を発した僕を心配そうに見詰めている。
脳内に浮かぶ、野薔薇と霧に囲まれた古城...
___もう、誰も傷付けたくないのに...
『...っ、』
「あ、ちょっとA!?
何処に行くんだい!!」
男の子の声が、あまりにも悲しくて。
僕自身、居ても立ってもいられなくて。
驚くコウさんの静止も聞かずに、僕は森の中へと飛び込んでいった。
___誰か、オレを見付けてくれ...
.
. .
. . .
. .
.
僕は走っていた。
暗い、森の中を。
何故、走っているのかは分からなかった。
誰かを探しているのか、この暗闇から出ようとしているのか...誰かから、逃げているからか。
しかし。
幾ら走っても、幾ら木の根に足を取られても、この暗闇に光が射すことはなかった。
永遠に続く...孤独、だった。
もう、自分が誰なのかも分からない。
もう、足も動かない。
___...もう、独りは嫌だ
だんだん薄れ行く意識の中で、あの声だけが脳裏に谺していた。
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Carlo(プロフ) - コメント失礼します、この作品とても好きです。一気に5話まで読んでしまいました!更新頑張ってください (2018年1月15日 22時) (レス) id: ba25b1f9ca (このIDを非表示/違反報告)
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