episode-6 ページ8
｢キレイ系って感じで……芸能人で言ったら、ほら、ヴィル・シェーンハイトとか似てますよ」
｢！っ！ぐっ……けほっけほっ、けほっ｣
｢あっ？！大丈夫ですか？！｣
リヒルデさんは急に咳き込んでしまった。やっぱり芸能人のくだりから少し様子がおかしい。これも聞いちゃいけない事だったのかな。
言えないことだらけで、頼る人が誰もいなくて、きっと訳ありの人なんだろうけど、僕はどうしてか親近感すら感じてしまうのだった。
咳に喘いで震える背中を撫でさすりながら、ぽつり、ぽつりと吐き出してしまう。
｢僕もね、リヒルデさんと同じです。ここへ来た時は一人ぼっちで……凄く心細かったんです｣
｢ユウ君は異世界から来たんだっけ、グリム君も？｣
｢オレ様は元々ここの魔獣だゾ｣
飽きたのか、少し前から既に会話の輪から離れていたグリムが返事をする。
「……まあ、でもオレ様もそれまではずっと一人だったんだゾ」
「でも、結局僕はグリムの子分になれたし、今はちっとも寂しくないんです。だからきっと、リヒルデさんともすぐにお友達になれると思うんです」
隠し事をする関係というのを否定したい訳では無い。けれど、僕は彼女のことをもっと知りたかった。それを望んでいる根底には、もしかしたら不純な動機があるのかもしれない。しかし……
「僕はオンボロ寮の監督生として、リヒルデさんの入寮を歓迎します」
そう言ってそっと右手を差し出す。リヒルデさんのか細い手がそれを取った。そうして僕に向けられた彼女の瞳が、心做しか輝いているように見えたのは、僕の願望が見せた幻影だろうか。
こうしてオンボロ寮の寮生がもう一人、増えたのだった。
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作者名：虹雪 | 作成日時：2024年2月8日 2時
