episode-42 ページ44
動けないヴィルのすぐ近くまで、グリムの吐く炎が迫ろうとしていた。……落ち着け。一秒でも判断が遅れたら、取り返しのつかないことになるかもしれない。
「っ……ルーク、魔法障壁を！」
「ウィ！」
私が言い終える前に、ヴィルに近付いたルークが手際よく障壁を張った。マレウスはかなり手加減しつつ、グリムに攻撃魔法を放っている。
「マレウス、あっちにおびき寄せるわよ！」
「……僕に命令するとは……いや、承知した」
私たちは、ヴィルと真反対の方向に走って攻撃を当て続けた。魔獣は大抵、攻撃を加えてくる相手を敵と見なす。敵は無抵抗な獲物より優先されるのだ。
「こっちよ！グリム！」
「ガウウウ、ガルルルッ……！」
グリムは獰猛なシアンの瞳がぎらりと輝かせ、素早く私達の方に姿勢を方向転換した。
「よしっ、このまま……！」
「……ガッ！！！」
「っ……………？！！！」
グリムの近くで、不気味な蒼い光がまるで鬼火のように瞬いた。
「……ヴィル！！」
炎の塊は私達とは真反対の方向に飛んでいく……ヴィルとルークがいる方向に……。
パキンッ……と魔法障壁が砕ける音が鼓膜を叩く。障壁の周囲の瓦礫が燃え、崩壊する。絶望を感じるより先に脳内の思考が止まってしまう。
そして動き出す暇もなく、二つの人影は、炎の中に消えていった。
……私の中で何かが爆ぜた。
グリムが次の攻撃に移る前に、魔法で速度を付けつつ一気に肉薄する。
攻撃は火を噴ける口と鋭い爪。それさえ封じればどうということは無い。私は容赦なく攻撃魔法を当て続けた。不思議だ。さっきまでの疲れが嘘だったかのように、体の内側から魔力が溢れてくる。
「ガウッ？！……グルル……！！ギャウ！」
グリムがまるで悲鳴をあげるかのように唸ったが、無視して連撃を打つ。……ヴィルは悲鳴だって上げられなかったんだ。『せめてお前は嬲り殺しにしてやる』。
「グルッ……ギャウウッ！！ギャンッ！」
『そうだ、首筋と脳天を狙うんだ。じわじわと苦しめてから殺せ。殺せ。殺すんだ……この化け物を！』脳内で私が叫ぶ。
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作者名：虹雪 | 作成日時：2024年2月8日 2時
