episode-31 ページ33
『美しき女王』たるグリムヒルド様が、こうして鏡の空間を通して私に接触することは、決して珍しいことではなかった。何か御用があることに変わりはないだろうが。
「今日は何のお達しなのですか？」
「リヒルデ、お前は力及ばずあの化け猫に敗北したね？」
「そう、言えますわね。やはり私は力不足だったのでしょうか……」
弱音を吐いても、依然あの女は凍てつくような笑みを湛えている。憎たらしい女だと思った。
「お前には出来る。それは間違いないことよ。しかし今回は確かに不調であったらしいわね。まあ、精々その力の目覚めを祈るので精一杯だろうけれど」
「目覚め……？どういうことなんです？」
「お前にはまだ秘めた力が眠っているの。それを解き放てばグリムを倒せる、という訳よ。何も私は無意味にお前を選んだ訳では無いの、リヒルデ」
｢……貴女が私をそうまで使いたがる理由が分かりませんわ。私は貴女の望むまま、貴女の魂の器となる命をこっちの世界に産んで、それでお役御免かと思っていましたもの｣
｢ふふっ、いずれ分かるわ。お前の正体が、その力が何か……｣
意味深な言葉と共に、グリムヒルドを映す鏡が、どんどん曇って遠ざかってゆく。
目覚めの時が来た。
ーーー
ぼんやりとした視界に真っ先に入ってきたのは知らない天井だった。
「お目覚めかな？マドモアゼル」
聞いた事のあるような声と自分に対する変な呼称で、私の脳は一気に覚醒した。何故逃がしたはずのこの男がここにいる……？
「だれ、あなた……それに、ここ……は……？」
side-ルーク
私室のベッドに寝かせていたリヒルデの呼吸音が絶妙に変化したのに気付いた私は、急いで視線を彼女の美しい寝顔に向けて、目覚めを待った。
「だれ、あなた……それに、ここ……は……？」
寝起きの無防備な姿は、初対面のやや冷淡な印象とは大分異なって、案外愛らしいとさえ思った。
「ルーク・ハントだよ。オンボロ寮の庭で前に話したことがあっただろう？覚えていないかい？……ああ、それとここはポムフィオーレ寮の私の部屋さ。倒れているキミを見つけて、居ても立っても居られなくてね」
「そう……かんしゃ、するわ……でも、行かなきゃ……」
まだ意識が朦朧としていたらしい。校医のゴーストに見せた所少し頭を打っていたらしく、目覚めるまでの経過観察を言い渡された。今は安静にさせなければならないだろう。
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作者名：虹雪 | 作成日時：2024年2月8日 2時
