episode-19 ページ21
『ポムフィオーレ寮の寮長』を話題に出した途端、ルークは僅かに動揺を示した。もしかしたら、ルークはとっくに私とあの子の関係に気付いているのかもしれない。
「ああ。ヴィル・シェーンハイトという人だね。とても美しい人だよ。……ちょうど瞳の辺りなんかはキミによく似ている」
私が腹を探ろうとしたことが、ルークにもバレてしまっていたらしい。同じような手をやり返された。
「そう。テレビで見たことあるかもしれないわね」
「芸能人として日々活躍しているからね。」
因みに、あの子がモデルと俳優をやっていることは学園長から聞いた。エリックが「この子の将来は俳優だ」なんて冗談めかして言っていたのを思い出す。それが本当になってしまったのだから、あの子は本当にすごい。
「……ところでマドモアゼル、キミの名を教えておくれ」
「名前？……まあ、この際いいわ。リヒルデ・エーレンベルクよ。他の人には私のこと、絶対に言わないでね」
「ウィ、リヒルデか。いい名だね……それにキミとは良い友人になれそうだ」
「そう、何よりよ」
そう言い残して、ルークはさっさと帰ってしまった。本当に写真を見せられて終わったから吃驚した。とはいえ彼には注意しなければならない。ヴィルに何か余計な事を言わないか心配だ。ヴィルが私の存在に、そして私の正体に気付いてしまうのはまずい。……私はもうあの子の前に母親として姿を現すつもりはないのだから。
ーーー
その夜、私は不思議な空間の中を泳いでいた。そこは言わば魔法で作り出した亜空間のようなもので、空間を経由すれば、『現在』に限ってなら自由にどこへでも行けた。先程の位置特定に用いたのもこの魔法だ。空間内では地平の彼方まで続く長い長い一本の通路を挟んで、無数の鏡が向き合って浮かんでいる。
足場は中央の通路だけで、鏡が並ぶ空間には床も天井も無い。上にも下にも行くことは出来ず、横の移動のみが可能だ。
その無数に浮かぶ鏡の中に、穏やかな寝息を立てるユウの姿を見つけた。
もう一つ、同じ部屋で眠るグリムの姿を映す鏡も見つけた。その二つをユウを映す鏡の前に向かい合わせる。本来、『現世』の鏡同士を合わせ鏡にしてはならないのだが、止むを得まい。
これも『あまりに早く蘇ってしまった』が故の痛みだ。
ユウとグリムには悪いと感じている。一年近くかけて築き上げた彼らの絆を引き裂かなければいけないのは心が傷んだ。
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作者名：虹雪 | 作成日時：2024年2月8日 2時
