episode-1 ページ3
side-ユウ
コンコンコン……
オンボロ寮の玄関のドアが叩かれたのは、いつもと変わらない放課後の事だった。グリムは談話室でぐうたらしているし、僕も今日言い渡された課題にそろそろ手を付けようかと思っていた時だった。
「はーい、今出まーす」
きっとデュースだろう。今日は陸上部は休みらしいから。そんな軽い気持ちで、僕はドアを開けた。
「良かった！監督生くん、ああ、今の時間にちょうどオンボロ寮にいらっしゃるかどうか分からなかったので、もしご不在だったらどうしようかと……」
傾いた午後の太陽を背に、玄関に大きな影を落とす男がそこには立っていた。背筋に嫌な汗が伝っていくのを感じた。
「が、学園長……！こんにちは」
態々訪ねてくるような用事なんて、面倒事に違いない。……ああ、今日中に終わらせなきゃいけない課題があるのに、と心中に叫びながらも、目の前の学園長には何とか笑顔を作る。
「何か、僕にご用ですか……？」
「ええ、はい！監督生くんにしか頼めない『大切』な仕事があるんです！引き受けてくれたら私としても大変気が楽……ああ、いえ、大変嬉しいです！」
待ってましたとばかりに矢継ぎ早に言葉を繰り出す学園長に、流石の僕もげんなりして眉毛が八の字に垂れてしまった。
「その、お仕事って……」
そう言いかけたところで、僕は学園長の後ろに隠れるように立っている人物に気が付いた。全く見覚えのない人物だった。とはいえ、僕が言葉を紡ぐのを忘れてしまったのは、それだけでは無かった。
「女の子……？」
顔立ちや体型を見るに、どう見ても女性のそれだった。ナイトレイブンカレッジは男子校だ。本来女子がいる筈はないのだが……。
「ええ。不躾なお願いではあるんですが、しばらくの間この子をオンボロ寮に置いてくださいませんか？」
「えぇっ！？」
学園長に背中を押されて玄関に入ってきた少女が、僕に向かってぺこりと頭を下げて来た。
「初めまして、私はリヒルデ。事情があってしばらく故郷に帰れなくなってしまったの。迷惑を承知で、お願いできないかしら……」
気の強そうな顔とは裏腹に、少女の物腰柔らかな態度に意表を突かれる。……よく見てみれば、結構な美形だ。真っ直ぐにこちらを見つめるアメジストの可憐な瞳に、気付けば僕は釘付けになってしまった。
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作者名：虹雪 | 作成日時：2024年2月8日 2時
