【ヒロアカ】受動喫煙【男主】 (ページ9)

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9本目. ページ9

何の意味も持たないキス

何故俺はコイツにした？
どうしてだ？
俺の頭は可笑しくなったのか？

｢お、俺はあんたに言われた通り誰にも話して無いし、あの時の事は忘れた。だから｣

"忘れた"

この言葉を聞いた瞬間、凄く寂しくなって心が捩れる思いだった
そしてその意味の分からない感情は

｢い"った…！｣
｢あ…悪い｣

コイツの座る椅子を蹴飛ばし、案の定吹っ飛ぶ1年は床へと転がり落ちる
強く下から睨まれる俺、不愉快で腹が立ってまた蹴りたいと思うはずなのに

背筋がゾクゾクした

分からない、自分が、自分の感情が分からなくて怖い

俺は

｢もう俺に関わらないで下さい、失礼します｣

逃げる様に扉を開け、この場から走り去っていく背中を見て

どうして俺はあの時の様な感情に包まれているんだ

状況だって、お互いの関係性だって、歳だって、あの時とは全く違うのに
どうして俺はこんなにも

｢ッ……え…｣

心臓が痛い？

俺の視界がボヤけて制服にシミが出来るのは
俺が泣いているからか？

｢んだよ…これ｣

涙を流したのは、随分と久しぶりだった

最後に涙を流したのは、小学3年生の時
良く、覚えてる

狭く、薄暗い部屋は、いつも何かが腐った様な臭いがして、あちこちにゴミが散らかって、まるで豚小屋のようだった

その豚小屋に帰れば、いつも独りだった

でも、俺にとってはそれが普通だったから
寧ろ、独りが好きだったから

怖い女に、殴られなくて済むから

あの女と顔を合わせる時間は、なるべく少ない方が良い
そう思った俺は、近くもない公園でいつも時間を潰して、重たい脚を無理矢理に動かしながら豚小屋への道のりを歩いた

あの日も、同じ様に過ごして、同じ様に歩いて、同じ様に豚小屋へと辿り着いて、同じ様に脅えながら扉を開けた

ただ一つだけ違かった

｢…だれ…？｣

｢…｣

豚小屋の中には転がった女と、背の高い男が居た

その男は俺をじっと見つめた後、俺の顔へと煙草の煙を吹きかけ、整った顔で俺に笑い掛ける

｢お前のお父さんだぞ｣

随分と、若い男だった

転がった女は俺の名前を呼び、近付いて来るように俺に指示した
逆らえば痛い、怖くても従う
震える脚を混乱した頭で動かし、近付く

怖い、俺は何をされるんだろう
また殴られるのだろうか
また、痛い思いをしなきゃならないのか

｢A…ごめんね、大好きよ…｣

女は、俺を生暖かい瞳で見つめながらそう言った