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『拓朗！』





遠くから走ってきたのは


中学校の制服を着たAだった





「A、卒業おめでとう」






Aの母からの提案で


卒業式が終わったAを迎えに来た





中学を卒業しても


全く大きくなる気配のない小さいAが


俺の隣を歩く


卒業が寂しいのか、はたまた違う理由なのか


目には涙をためて、辛そうな表情をしている





『東大行くって、ほんま？』





こちらを見ることもなく


俯いて尋ねるAの声は震えていた





「おばさんに、聞いた？」



『うん・・・』



「大丈夫


長期休みには帰って来るし


今までとほとんど変わらんやろ？」



『そうやけど・・・』





立ち止まって


涙をこぼしてしまったAの前に立ち


涙を拭う





『私・・・』



「ん？」



『私、絶対東大行く』



「え？」





耳を疑った


そんな言葉をAから聞くことになるとは





「A何言って・・・」



『本気やで


高校でめちゃくちゃ勉強して


絶対拓朗のこと追いかけるから


だから・・・』





まだまだ子どもなAは


大粒の涙を流しながら俺に訴えた





『私のこと、忘れらんといて』





・





人がほとんどいない駅のホーム


泣きつかれたのか


卒業式がつかれたのか


Aは俺の肩でぐっすりと眠っていた





「忘れらんといて、か・・・



そんなこと、言われなくても



忘れるわけないやろ」





嬉しかった


Aが俺を追いかけてくれることが


俺を追って東大に行くと決心してくれたことが





「っ・・・」





俺は初めて


誰もいなくなった駅のホームで


肩で眠るAの唇に


自分の唇を重ねた





――――――――――――――――――





「ん・・・


やば」





どうやら寝てしまっていたらしい


肩にはタオルケットが掛けられている


Aがいない





・





『あ、拓朗


起きた？』





リビングでは


パジャマ姿のAがゼリーを頬張っていた





「お邪魔してます」



「なんで山本がここに」



「ふくらさんが撮影で来られなくて


俺が代わりに」



「そっか、ありがとう」





パジャマ姿で男家に上げるって


本当に危機感がなさすぎる


Aは少し楽そうになったものの


顔はまだ赤く、ぼーっとしている






『拓朗、ごめんね


心配かけて


もう、大丈夫だから』

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