【松岡凛】部長の妹がこんなに美人なわけがないPart5【Free!】

9　ES編　Side凛 ページ9

「これじゃ、私、眠れないですし」

　バクバクと大きな心音が伝わってくる。
　つまりは、モモと俺の間にはこれだけ大きな差がある、ということなんだろう。
　焼いた小さなやきもちが、こんな展開を生むなんて。
　緩んだ腕を抜けて、目を逸らしながら、言いたいことだけ言った。

「――俺以外にしたら、怒るからな。女友達とかはまぁ、許す」

　でもモモはダメだ。姉を基準にしてナンパするヤツだ。モモはダメだ。
　レンジが仕事終わったぞと告げ、残り時間が減っていっていることを思い出した。
　慌てている俺にAが理由を問う。隠しもせずそのまま伝えれば、成程、と。

「いつもあんな格好で寝てんの？」
「夏はいつもあんな感じで寝ております……」

　夏に厚手の毛布を出しているのも、意図的。ちょっとしたこだわり持ちらしい。
　本来ならもう一枚薄手のタオルケットがあるのだが、クリーニングに出してしまったと。
　やっぱり少なくとも夏場は、勝手に寝室へ入らないでおこうと思った。

　バタつきながら寮に戻って、担任の元へ。
　なんだかんだ時間かかってるな、なんて予定の5分前にドアをノックしながら思った。
　入って座ってすぐ、担任が小さく笑った。

「松岡？ カノジョのヘアピン、ついたままだぞ」
「わああっ！」

『寝癖ついてますよ』なんて言われて、撫でつけながらさし込まれたその存在をすっかり忘れていた。
　俺コレつけたまま外軽く走ってきたのかよ……。
　残念ながらまさに女物の飾りがついたそれを外しても、へにょっ、と俺の髪一束は力なく空を向いた。

　俺だけがちょっと恥ずかしい空気の中、堅苦しい話が始まったのだった。

---

10 ES編→←8　ES編　Side凛

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す