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そこに立っていたのは。
まごうことなく、クイズノックの敏腕プロデューサー、閃き王子こと福良拳その人で。
「あー良かった、やっぱりAちゃんだった」
にこにこと笑いながらそっと隣に並んでくれた長身の彼を見上げるだけで、さらに心臓が早鐘を打ち始める自分を自覚せざるを得なかった。
クイズノックに入る前からのファンで、ひょんな事から、友人の紹介を経てこの会社に入ることになってからも、変わらずずっと、その姿に憧れと淡い恋心を抱いていたその人が、偶然にも自分なんかに声をかけてくれて、目の前で微笑んでくれているのだから。
突然のことに頭の中がショート寸前で言葉すらも出てこない状況に陥っていると。
「わ、結構買ったんだね。もしかして買い出し?」
小首を傾げながらチラリとエコバッグを見ると、再び私に目線を合わせてくれる。
『あ、そ、そうなんです。ジャンケンで負けてしまって…』
今日は運がなかったみたいで、と言い終わらないうちに、ふくらさんの手がするりとエコバッグにかかった。
「貸して?持つよ」
『え?!い、いいですいいです!!だってこれは私の仕事で…!』
「仕事って言っても、買い出しジャンケンに負けただけでしょ?俺も今から帰る所だったし、別に俺がこれを持って帰ったって誰も文句言わないよ。だから、ね?」
物腰柔らかなのに、どこか有無を言わせず甘えてしまいそうな雰囲気を醸し出されてしまって、ついその誘惑に負けそうになったけれど。
『それはそうかもしれませんけど…なんか、その、これじゃあ私がズルしてるみたいなので…これは、私が責任を持ってオフィスまで持って帰りますっ!』
思ったよりも大きな声でそう宣言してしまって、驚いたように福良さんの目がパチクリと瞬きして、やがてふにゃりと弧を描いた。
「ふふっ、Aちゃんて意外と律儀なんだなぁ」
口元に手をやり、心底面白そうに笑いを堪える姿に、カッと顔が熱くなる。
せっかくのふくらさんの優しさ無下にしたことも、大好きな人に頑固だと言われてしまったことも、きっと第三者目線から見れば何やってんだよ大馬鹿者と言ったところだとも思う。
けれど、今ここでふくらさんのご好意に甘えてしまうのは、何だか違うのではと思ってしまったのだから仕方ない。
あまりの恥ずかしさに自分がいたたまれず俯いていると、何故か再び、エコバッグを持つ手に暖かな手が重なっていた。
「じゃあ、こうしようか?」
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作者名:SEN | 作成日時:2021年10月16日 0時