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「待って、もう帰んの?」

『え?いや、まだ仕事がありますし。これからオフィスに戻ろうかと…。あ、何かまだありますか?』

「いや、違うんだけど。んーそだな…」


何やらクイズの答えを頭の中から引き出しているのと同じ顔で伊沢さんが悩んでいるのを、神妙に見つめる。


「じゃ、局の一階にカフェが入ってっから、そこで待っててくんない?」

『え?』

「一緒に帰ろ。決まりな。じゃ、俺もうすぐ収録だから!多分後1時間ぐらいで終わるから、絶対、待ってて!じゃ、また後で」

『え、え?!伊沢さん?!ちょ、と!え、待って下さい!なんで…』


そんな声も虚しく、再び関係者入り口に消えていった伊沢さんを呆然と見つめる。

今、何と言われたのだろうか。

まるで小学生の約束のように、一緒に帰ろうと言われた事だけは分かったのだが。

目的が不明すぎて頭が追いつかない。

何故待っていないといけないのか、何故一緒に帰らないといけないのか。

全てを知る回答者、もとい出題者はもうここにいない。

しかもこの状況を、上司であるふくらさんに、どうやって報告すべきなのか。

不安材料ばかりを抱え半ばパニックになりかけながら、伊沢さんから待っててと言われた手前帰ることも出来ずに、とりあえず指定されたカフェにフラフラと足を進めた。

意外に空いていたカフェの一席に座り、頼んだミルクティーを口に含んでため息をつく。

とりあえずふくらさんへの報告だけはしておかなければ心配をかけてしまうかもしれないとラインを開いて。

どう打つべきなのかを迷いすぎて再び画面を閉じた。


《伊沢さんから収録後に一緒に帰ろうと言われたので1時間後に帰社します》

《え、なんで?》と帰ってくるに違いない返信が目に見える。


《諸事情であと1時間後に帰社します》

帰社してからの事情説明が混迷を極めることは免れない。


《カフェでお茶してから帰ります》

クビになるに違いない。


しかしこの状況を、その会社のCEOが招いているのだから、本当にどうしたものかと頭を抱えるしかない。

仕方ないと思いながらため息をつきつつ、ふくらさんへラインを打った。


《無事に書籍を届けましたが、伊沢さんからの指示でテレビ局に待機しています。1時間後には帰社出来るかと思いますので、よろしくお願いします》


何故なのか疑問には思われるだろうけれど、これだけ説明していれば、これ以上の追求はないと思いたかった。


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作者名:SEN | 作成日時:2021年10月16日 0時

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