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「…もう、いいよ」
「A?」
ベットサイドの目覚まし時計の針が15時と刻まれたある日の昼下がりの午後。翔太が私のためにと語ってくれる話から自分の悪い所が晒されているようでいい加減嫌になってしまい話を途中で切った。
「翔太は自分のために有効に時間を使ってよ。私なんかに時間を使っても結局揚げ足を取るだけ。無駄だよ」
「そうしたらAは?Aは向き合えるの?」
「…っ私が誰と向き合おうが向き合わないだろうが翔太には関係ないじゃん。人を信じて騙されて干される回数が多くなるくらいなら誰とも顔を合わせない方がいいから」
手を差し伸べてくれる人がいるというのに私はその手を払ってしまい前へ進もうとしない。その踏み出す一歩が怖いから、また進んでしまったら下に落とされそうになるんじゃないかと被害妄想が頭の中に定期的に浮かび上がる。
自分を好きになれない奴が一歩進もうなんて偉そうな口を叩けない。
「__ゴメン、入るよ」
すると突然扉の開錠の音が耳の中に入ってきた。部屋の内側に鍵が付いているなんてそんな便利なことも無い。私が家族や翔太には今まで「開けないで」と必死にせがんだから大人しく聞いてくれたというのに。
翔太の優しさに、甘えていたのに。
隙間からの灯りが眩しく見えて毛布で自分の姿を隠す暇もなく翔太は部屋の中へと半ば強引に入り込んできた。
「やっと顔が見れた」
カプティックの赤茶けた瞳にヘンナの色付いた髪。けれどもなにより顔つきがずっと大人びていて雰囲気も変わっていた。
こんなにも翔太って背が高かったっけ。
しかしその驚きによって一瞬自分の姿を隠すことを忘れていた。私は思い出してから傍にあった毛布を手に取ろうとした。
「逃げないで」
けれどそれは翔太の手によってはばかれて両手首を男の人の手によって掴まれた。
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作者名:夜紅茶 | 作成日時:2020年6月9日 16時