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震える声で振り返って一段だけ高い位置にいた坂田の方へと視線を見上げた。
唐突に有り得なさそうな話を切り出しても今の彼には通用しないだろう。前世の記憶を持っていて私が愛した人が坂田だったなんて。
「私が坂田を殺したんだよ？私が悪魔だったのも坂田が天使だったのも今の坂田は知らないでしょ？」
私は泣きそうになるのを堪えるために笑みを浮かべて摩訶不思議な話をするかのように語りかけて見せた。今の時代そんなファンタジーな話を誰が信用するのだろうか。
今の坂田は昔の坂田じゃないから。だから本音を言っても別に覚えていないから。平気で話すことが出来た。
「＿＿覚えとるよ」
しかしあまりにも予想外な答えが飛び交って来て私は再度顔を見上げてみれば坂田は穏やかな表情で笑いかけていた。前世の記憶を覚えていた、それに対してもちろん驚いてはいたけれどもその次の行動の方が印象が強かった。
なんでそんなに、笑っているの？
「ちゃんと知ってた。生まれた時からずっと前世の記憶が残ってた」
「うそ…」
「俺はAのことを生まれた時から探してたんよ。けどここで見つけた時はすごい嬉しかった。この世界なら何も運命とかに縛られることなく好きな時にこれからもAの隣にいられるから」
殺された時、私のことを憎んでいるかと思っていた。
悪魔だった私が坂田に対する恋心を忘れてしまおうと坂田の命を簡単に殺めてしまったあの瞬間に嫌いになったんじゃないかと思っていた。
「でも私は坂田を裏切ったんだよ！？自分の都合で坂田を裏切って命を奪って…わたしは…っ」
「本当に俺の命を奪いたかったんならあの瞬間に涙は流さんやろ」
遠くの方から休み時間の終わりを告げるチャイムの音が聞こえてくる。
荒らげた私の声は坂田の言葉に吸収されて簡単にかき消されてしまった。
「…俺のこと、“愛してたよ”って言ってくれたやろ？」
掴まれた手首を力なく離されて再び距離が出来た。
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作者名：夜紅茶 | 作成日時：2020年6月9日 16時
