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「とりあえず自己紹介したら?話聞いてる限りまーしぃ説明せずにここに連れてきたみたいやし」
「あ、そっか。じゃあ俺から」
死神からの提案に黒猫は受け入れ、立ち上がってから口端を半月のように釣りあげて青年らしく笑った。
「改めましてこんばんは。俺はこの船の船長、うらたぬき。君の世界では“化け猫”なんて物騒な名前で呼ばれてる」
「よろしく」とうらたぬきと名乗る彼は私に蛍光色のライムグリーンで染められた爪が目立つ手を差し伸べてきた。悪気は多分ないと判断した私はその手を取り屈折していた足を伸ばし立ち上がった。
けど一つだけ私の中で引っかかる言葉がうらたぬきさんから発せられた。
「船ってなんですか?」
「そこはおいおい説明するよ…にしてもやっぱりいいねぇ。俺はこの子の体好き」
「そういうサイコパスみたいに突飛的な発言が物騒って言われてるんやろ」
「よくわかんないなぁ。一応俺が言ったのは“褒め言葉”だけど?」
オレンジ色の服を着た人から咎められているが「ふふっ」と何かを含めたように笑いながらも掴まれた手を離さず、ずっと撫でてくる。それが何故か鋭い刃物で肌をなぞられているようにも思えてきて心臓の音が脳内まで響いてくる。
瞳の奥に見えるのは恐怖という一言だけでは表せないようなそんなおぞましいものに近い何かを宿している。
「んでもって、俺は志麻。さっきみたいに人間の血を体の中へ得ながら生きてる吸血鬼」
背後に移る白い満月。彼が口を開き人差し指でひらがなのいの形を作れば通常の人間よりもさらに尖った白い犬歯を覗かせた。
疑問に思うことは沢山あった。さっきの彼女は生きているのかとかどんな経緯で私をこの場に連れてきたのかとか。その根本的な部分を彼が大方閉めている。
「結構ええ匂いしてる。…そのまま皮膚を割いたらどうなるんやろうなァ?」
「っ…」
耳元へ囁くように顔を擦り寄せて来るものだから防衛反応で後退りをすれば背後にいた人物へと背中がぶつかる。条件反射で見上げると冷たく貫く赤い瞳にローブの下から覗く紅の髪。白い罰がくっきりと浮かび上がっていた。
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