ピーチメルバ JN (ページ5)

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…大丈夫かなあの子
…なんか自分で立てそうじゃない？
…声かけてみる？

チラチラと見ながら、通り過ぎていく人たち。助けてくれないのか…ってちょっと寂しいしすごく恥ずかしいのだけれど、こっちから見ず知らずの韓国人に助けて！と叫べる程勇気は持ってなくて…。

あれ、そういえば手袋。どこ、あれ…ああ、転ぶときに手をバタバタさせて、手放しちゃったかも…。左手はあるんだけど右手だけ見当たらない。

「まあ…いっか…」

いや、よくない。よくないんだけど、大丈夫って思わないとなんか涙が出てきそうだった。つい俯きがちだった顔を、もうすっかり暗くなってきた空に向ける…。

「え、」
「大丈夫？」

びっ…くりした。顔を上げたら、大学生くらいのとても爽やかなイケメンが私の前に立ってた。…どう見ても私を見てる。
心臓止まるかと思ったのに、かっこいい…なんてときめいてる自分をぶん殴ってやりたい。

「あ、はい…大丈夫です」
「これ、君のだよね？」
「え！これ…」
「そこに落ちてたから。はい」

そう言って、私の失くした手袋の右手を差し出した。
うそ…拾ってくれたんだ…よかった。

「大切なものなの？」
「…？はい」
「嬉しそうな顔してたから」

綺麗な歯を少し見せて、ふ、と笑う彼の表情に目が眩んだ。私に目線を合わせてスケート靴のまましゃがんでくれると、余計どうしたらいいのかわかんなくて手袋を見つめる。

「子どものだと思ったよ、見つかってよかった」
「…すみません」
「どうして謝るの？」
「……わかりません」

私は今までの留学生活をすっごく後悔した。授業とかで聞き取りはできるようになったけど、自分の意思を伝えることができない。今まで韓国語を使うときなんて買い物のときしかなかったから、実際に会話しようとするとこんなにも話せないんだ…って思い知らされた。

子どもみたいな受け答えしか出来ない私を揶揄ってか、ハハッと声をあげて彼が笑う。